かぎりなく容赦のない勇者

ちびまるフォイ

誰よりも容赦のない優秀な人材

「勇者試験へようこそ。ココで採点するの強さなどではなく、

 勇者としての精神の強さが試されます」


勇者最終試験にたどり着いたのはわずか1人。

それでも試験官はけして手を抜かない。


「最近の勇者ときたらどいつもこいつも軟弱で、

 凄まじい力をもっていても魔王を見るなり尻尾巻いて逃げたり、

 しまいには相手を倒せずに、説得しようとしたりするのです」


「なるほど」


「そんなことで人々が守れますか!? 否! 断じて!!

 勇者の力を求める人々は悠久の平和を求めているんですよ!


 勇者が手を汚したくないからと相手を倒さないで仲間にしたり

 なんやかんやで説得したりなど求めてはいないのです!!」


試験官はにぎりこぶしをふるって熱く語る。


「ということを意識して、この最終試験にぜひ挑戦してください」


「はい」


すると、部屋の置くから魔王がやってきた。


「グハハハハ!! 勇者よ! 我に挑むとはその度胸は褒めてやろう!

 さぁ、我の手で無残な肉塊に変えて――」


「えい」


勇者は迷いなく魔王に剣を突き立てた。

それもまだ話している最中に。


「すばらしい! なんて迷いのない一撃!!

 ああいうテンプレ魔王を見てもビビってしまう勇者が多いのに、

 あなたときたら何の恐怖もなく相手を倒せるんですね」


「恐怖とかよくわかんないっす」


「それこそまさに勇者ですよ! 勇ましい者と書いて勇者ですからね。

 相手の強さに怯えるようなやつは勇者じゃありません!

 では、次はどうでしょう!?」


試験官がスイッチを押すと、倒された魔王と入れ違いに次の魔王がやってきた。


「僕のもとに来るのは君が30番目の勇者だよ。

 どうして……こんなことになったのかな。僕も最初、君と同じ勇者だった。

 世界を平和にしたのに、大きすぎる力に怯えられてこんなことになってしまった」


「……」


「毎日毎晩、いろんな冒険者に追い詰められて……襲われて。

 仲間の魔物もたくさん殺された。優しかったメイドのゴブリンも、

 いつも笑っていた門番のガーゴイルも。全部、君たちが殺したんだ」


「……」


「僕らは何もしていないじゃないか。ただそこにいただけだ。

 君たちはそれをわざわざ狩りに来ている。それが正義と言えるのか」


「……」


「もう僕は誰も殺したくないし、誰も死んでほしくない。

 ただ静かに暮らしていければそれでいい。だから……」


「もう攻撃していいっすか」


「え」


勇者のかいしんの一撃。


優しい顔をした魔王はあっという間に消滅した。

その手際の良さに試験官も拍手を送る。


「いやすばらしい!! 今回は倒せないかと思いました!

 やや同情する部分があると、どうしても感情移入してしまって剣先が迷うものです!」


「どんな理由であれ、倒すべき相手を倒すだけですから」


「そう! その鋼の精神こそ勇者!!

 どんな相手でも迷わず、ためらわずに倒す! それこそ求められる資質です!

 しかし、次はどうでしょうか」


試験官がスイッチを押すと、また魔王が入れ替わった。

今度は2人になっていた。


「私を……殺すというんですね……!」

「ママ?」


「大丈夫よ、言ったでしょ。ママはいつでもあなたのそばにいるわ。

 だから下がっていなさい。ママ強いから、いつもみたいに倒してみせるわ」


子供ならではの観察力の高さからか、大人の薄っぺらな強がりはお見通しだった。


「ダメだよ! ママ死んじゃう気でしょ!」

「前に出ちゃダメ!!」


「お願い! ママを殺さないで! 私が相手になってやる!」


「早く下がりなさい! 私が魔王よ! 倒すのは私でしょう!!

 かかってきなさい! そして、この子は手を出さないで!

 人間との間に生まれた子で、魔王じゃない! 無関係よ!」


「ママがいなくなるのはイヤ! 私も戦う! 魔王の子だもん!!」




「……あ、そう」


勇者はあっさりと剣をふるって、子連れの魔王を倒してしまった。



「アメージング! マーベラス! ブラボー!!

 いやはや、もう本当に今回の試験を突破できたのはあなたが初めてです!」


「そうなんですか」


「異性が相手だと途端に攻撃できなくなってしまったり、

 相手が子供の見た目をしていると攻撃しなくなってしまう勇者がほとんどです。

 ところがあなたは躊躇するどころか、子供から先に倒す徹底ぶり! おみそれしました!」


「試験はこれで終わりですか?」


「ええ、これで終了です! こんな優秀な勇者にめぐりあえて、本当に幸運です!

 いやぁ、これで世界の未来も明るいですよ!!」


「合格証書はどこで?」


「ああ、部屋の外で自動発行されますよ。あなたは文句なしの合格です」


勇者候補は外に出ると合格証書を受け取った。

試験官はその様子を見て満足そうにしていた。


「……あれ?」


試験官はふと勇者候補の手元を見て気づいた。


「どうして合格証書が2枚あるんですか? 試験は勇者だけでしょう?」






「ああ、同じ試験科目だったので、魔王試験も一緒に受けてたんです。

 そっちも満点だったんで合格できました」

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