警備がガバガバです。

side イルム



「ほら、買ってきたぞ」

「あら、ちゃんと買えたのですね」


えぇ……。流石に買い出しぐらいは出来るぞ。


「渡した金額の半分程度しか使用してないみたいですけど」

「あぁ、店の人がサービスしてくれたんだ」

「やっぱり魔道具は無かったんですね」


あぁその事なんだけど。


俺は村で得た情報をミリスタリア達に話した。



~~~



「魔物ですか」

「ああ、ここ最近このあたりに増えてきたみたいでな」


ボーツに壁と兵士がいたのもそれが理由。時折、村に魔物が出現する為。増えた魔物の素材や、その原因を突き止めるために冒険者ギルドの派遣支部が設置されているらしい。


「だから外で野営すると魔物が頻繁に来るかもしれない」

「じゃあ早くここを離れた方がいいんじゃないですか?」

「しかしもう夕方です。これからの行軍は危険が伴います」

「それなら村の中に入るか?宿の中にはシャワーがあるらしいし。外套だってある」

「しかし、それではリスクが大きすぎます」

「多分あの門番なら大丈夫だと思うけどな。それに路銀の問題もある」


さっき食料や水を買った元手はアリアの持っていた魔道具の中に入っていたもの。このままではいずれ尽きる。北を目指すのならどこかで必ず路銀を稼がなければいけない。


「村に入れたら冒険者ギルドで路銀を稼ぐ」

「なっ、今ここでなくても!」

「でも、これから向かう町や都市ではもっと警備が厳しいんじゃないか?」


ここの門の警備は通常の町や都市に比べて大分警備が手薄だ。ロクに身分の確認もせずに。


「それはここがそれほど重要な場所では無いからでしょう」

「近くに戦場があるのにか?」

「普段ならここの先に警備が敷かれています。その事があってかここは特に何か重要な拠点という訳ではありません」

「なら尚更今のうちに路銀を稼いでおくべきじゃないか?切れてからじゃ遅い」

「……分かりました。当然ですが門に入る時は……」

「素性を隠すんだよな」



~~~



「むーっ」


結果からすれば門を通る事が出来た。兵士から怪しまれる事も無かった。しかしミリスタリアの方が問題だった。






「えらい別嬪さんを捕まえたなぁアンタ」

「そうですね、俺には勿体ない位です」

「そちらの方は?」

「あぁ、護衛です」

「……あぁ分かった、通れ」


顔が知られているミリスタリアは外套を深く被り、顔を隠している。


設定としては俺とアリアが若い夫婦。ミリスタリアはその護衛。先程俺が一人で来たのは俺が旅をしていてこの村で先に待つためだという事。





しかし、村に入ったのはいいがミリスタリアが先程から不機嫌だ。外套のお陰で顔は見えないが、この声は明らかに不機嫌だ。


「私がイルムさんの妻でもよかった筈ですよね?」

「しかし顔を見られる危険があるかもしれないと言ったではありませんか」

「むーっ」


ミリスタリアはそっぽを向いてしまった。


(姫様は少したてば機嫌が戻ると思います)


と、アリアが耳打ちしてくる。


(戻るならいいけど)

(はい、しかしこの設定は無理があったかもしれません)

(無理?)

(少なくともこの村の中では私達二人は夫婦です。というと宿では……)

(……あっ)


これはとても不味い事になるかもしれない。


(そうなるとますます姫様の機嫌が心配です)

(ん?どういう事だ?)

(……あなたはいいです。今は演技に徹して下さい)

(……はい)



〜〜〜



side アリア



(という事で姫様。私とイルム様だけが同じ部屋は嫌ですよね?)

(……いやです)

(という事で護衛として妻の私に近くにいてもらう事にします)

(妻って言わないで下さい!妻って!)


どうやら今回の不機嫌タイムは長引きそうですね。


(取り敢えず、明日1日は『姫様とイルム様二人きり』で魔物を狩ってギルドで換金するという事ですから)

(……二人で!?)


二人きりという部分を強調する。


(思う存分話せなかった鬱憤を晴らして下さい)

(はい!)


苦労人アリア、これからも絶えずかかるであろう苦労に負けるなアリア、頑張れアリア。

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