同じ屋根の下?です。
ザンダリウスのフリージアが捜索隊を出している頃、草原を脱出した三人は今夜野営する場所を定めようとしていた。逃げてからの移動距離といえば、常人が歩きで1日掛かる距離を僅か数時間で走り切ってしまった。
「アリアさん?大丈夫ですか?」
「えぇ、少々息が上がっていますが問題ありません」
プイッとそっぽを向かれる。
「はい!取り敢えず今夜のうちにここまでは来れないでしょう。今日はここで野営としましょう」
「分かりました、ミリスタリア様。準備致します」
ミリスタリアとアリアは野営の準備をする。野営なら俺が持っているアレが使えるだろう。
「二人とも、これを使ってくれないか?」
イルムは、胸に付けているペンダントを二人に見せる。
「ペンダント?」
「何かの魔道具ですか?」
「ああ、さっきアリアさんが使ってた腕輪と同じように物が収納出来ます」
このペンダントは通常の収納出来る魔道具とは少し違いがある。大きな特徴として、中に入ったモノの時間経過が行われない。食べ物が腐らないという事だ。これだけでこの魔道具は相当な価値を持つ事になる。しかし、このペンダントの仕様は少し難しい。『一つの種類のモノが一つしか入らない』という事。例えばリンゴならリンゴ一個だけ。二個目は入らない。しかし『一つの“モノ”であればどんなものでも入る』。
「使い方によってはとても便利ですね」
「その中に入っていたのがこれだ」
ペンダントに手をかざす。すると、イルムの目の前に小さいテント出現する。
「イルムさん、これってもしかして」
「ああ、テントの魔道具だよ」
これまでイルムが野営の時にお世話になったこの魔道具。
「中に入って見ても良いですか?」
「どうぞ」
中に広がるのは、二十畳程の『畳』の部屋。和室である。
「広いですね!」
「これなら快適に休息が取れそうですね」
「イルムさん!この床に敷かれている緑のモノは何ですか?」
「これは私も知らないですね」
「俺も良く知らないんだけど『タタミ』って言うらしいぞ」
イルムがこれを手に入れたのは、これまでの戦争で褒賞で手に入れたモノである。これはその中でも高価なものでイルムが前回出撃したこの小競り合いでの報酬である。
内装は何も無い。これまで使用してきたイルムは、ただ単に雨風を防ぎ、灯りを確保できる場所として使用していた為だ。
「これからはここで寝る事にしようか」
「はい!ありがとうございます、イルムさん!」
流石にアリアの所持品の中にこのような魔道具は無かったようで、ミリスタリアはとても嬉しそうにしている。
「ありがとうございますイルム様。これで十分な休息を取ることが出来そうです」
アリアも頭を下げてくる。
「これから結構長い旅になるかもしれないから出来るだけ快適に行きたいし。というか王女様とそのメイドさんに何日も外に眠らせる訳にはいかないし」
「……もしかしてこれから三人同じ屋根の下です……か?」
ミリスタリアのその言葉を聞いた途端、顔を赤くする二人がいた。
(い、一緒に寝る!!?イルムさんの寝顔を見れる!)
(じょ、女性と一緒に寝るなんて経験ないし。それもいきなりミリスタリアやアリアさんみたいな美人と!)
これまでも何回かあったが、意識してしまうと止まらない。
((これは多分寝れない!))
そんな二人の様子を静観していたアリアは。
(これからこんな二人を何回見ることになるんですかね……)
「お、俺は外で寝ようかな?流石にいきなりそういうのは……」
「で、でも。イルムさんだけ外に眠らせる訳には……、でもやっぱりいきなりは……」
アリアは思った。『この二人、将来は一緒に寝るつもりなのか……』と。
「お二人とも、夜の見張りはどうするのですか?」
「「そこは寝ながらでも大丈夫だ(です)」」
「あ……はい」
アリアは思い出す。先程から互いにニヤニヤして互いを眺めているこの二人は一応『東の切り札』と『西の姫騎士』という異名を持つほどに強い二人だ。
「それならこの部屋の中で最大限に離れるという事でどうでしょう」
「そ、それならまだ……」
「大丈夫ですかね……」
(この二人、隣で寝ることを想定してたんですかね?)
アリアの二人を見る目が冷ややかになる。
「とにかく、これで寝床には困らないわけですから、食事といたしましょう」
「「はい……」」
未だに照れている二人を見て、アリアは心の中でため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます