メイドが仲間になりたそうにこちらを見ています。
side ミリスタリア
「イルムさーーーーん!」
私はもう迷いません。私がしたいからするんです。責任放棄?その通りですね、否定しません。国を裏切ると同じ行為です。
い、意中の人とかはわかりませんけど……。私はこの出会いを大事にしたい。逃げてでも。
「ミリスタリア?」
「逃げるんです。逃げましょう!」
「え、えぇ?」
「私は逃げます」
イルムは困惑し、目を見開く。あぁ、やっぱりカッコいい。
「に、逃げるって!ミリスタリアは王女だろ!?」
「そんなの関係ないです!もう私は決めたんです!」
「お、俺は国なんて大層なもん背負って無いけど!ミリスタリアは!」
「あー!大丈夫なんです!私はもうイルムさんと一緒にいるって決めたんですーーー!」
side イルム
じょ、状況が分からない。ミリスタリアが駄々をこねている。俺の腕に引っ付いている。
「だからー!イルムさんも逃げましょう!」
「えぇ……」
い、勢いが凄い。というか近い近い近い、柔らかい。ほのかに甘い香りを感じる。その香りに思わず胸を弾ませる。
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
「……ダメですか……?」
ミリスタリアがシュンとする。
そんな顔を見せられたら何も反論できなくなる。反則だろ、これ。
「俺は逃げるんだったら俺個人としては全く問題ない。ミリスタリアが逃げるって事は重大事件だ」
「ですから、私とイルムの両方が戦闘した結果、両者消息を絶ったって言う風にすれば大丈夫です」
「逃げる気満々だなぁ」
「はい!」
しかし、今ここから逃げるのには準備が無さすぎる。逃げるにしても場所が無い。
「に、逃げるのは良いけど何処へ行くかはまだ決まって無いよね?」
「取り敢えずザンダリウスとアースヘルムの勢力圏から出るという事ですね」
現在戦っているこの草原は、ザンダリウスとアースヘルムの領地に囲まれている。しかし、この領地はどちらのものでも無い。
互いにこの土地を領地として求めているが、現在では所有権はどちらの国にも無い。世界地図で言うところの白い部分の事だ。
この草原から逃げるとすれば、相当の距離を移動する事になるだろう。それには相当な準備が必要だ。
ともかく、俺はミリスタリアと一緒に居たい。なら、迷っている時間は無い。
「……取り敢えず、逃げるという事には……賛成だ」
「……そうですか!やたーーっ!」
ミリスタリアは両手を上げ、喜んでいる。もし、俺がこの提案を断っていたら、と思うと少しゾッとする。
「アリア!こっちに来てくださーい」
その後、アリアも加わり作戦会議が行われる事になった。
まず、話すことして何処に逃げると言う事だ。現在、漠然とザンダリウスとアースヘルムの勢力圏から逃げると言う事が決まっている。しかし、仮に勢力圏から出たとしてもその後の行く宛が定まっていない。少なくとも、アースヘルムかザンダリウスに味方する国であると追っ手が迫る可能性がある。
こう考えると『逃げる』と簡単に言っていたがとても難しいものになる。
次に、逃げるための準備の問題。俺はアレがあるから大丈夫だけど、ミリスタリアはそう簡単には行かないだろう。ミリスタリアは王女。色々な準備が必要だろう。それこそ、当分の食料や野営に必要な備品。
「私の準備に時間が掛かりそうですね」
「まぁ、準備が掛かるのは仕方がない。それなら決行は明日にでも……」
「いいえ、準備なら大丈夫です。私はミリスタリア様の日常品を全て所持しておりますので」
そうして、アリアが取り出したのは一つの銀色の腕輪。
「魔道具か」
「はい、王族の護衛に代々受け継がれている魔道具です。緊急時に使用する物が収納されています」
「それなら今すぐにでも逃げ出せるんですね!それでは私にその腕輪を渡してくれるんですか?」
「……???何をおっしゃってるんですか?私も一緒に行くに決まってるじゃないですか」
……ん?
「え?アリアも来てくれるんですか?」
「当たり前です。姫様とイルム……様と二人きりなんて不安すぎます」
「で、でもアリアに迷惑を掛ける訳には!」
これから、逃げるにおいて衣食住が欠けるのは不味い。因みに俺は料理はほぼ出来ない。野営の講習で習った不味くない料理ぐらいしか出来ない。
「このままミリスタリア様とイルム様お二人で逃げて本当に大丈夫だとお思いですか……?」
「「それは……」」
は、反論出来ない。これからの事を考えると色々出来そうなアリアさんが来てくれるのはとても頼もしい。
「でもそれだとアリアさんまでザンダリウスやアースヘルムからの追っ手に追われる事になります」
「ご心配は無用です。自分の身くらいは自分で守ります」
アリアはミリスタリアの前に跪くと頭を下げる。
「一生のお願いです。私を連れて行って下さい」
ミリスタリアが目を見開き驚きの表情を隠さない。ミリスタリアからすれば、アリアがこのような態度を取るのは知る限り初めてだった。ましてや『一生のお願い』なんて聞いたことも無い。
ミリスタリアはふぅと小さいため息をつき。
「そこまで言われては仕方無いですね。一緒に行きましょう、アリア」
「あ、ありがとうございます!」
こうしてアリアが付いてくる事になった。
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