決めます。

これまでアースヘルムとザンダリウスの二国での小競り合いは、例外無く三日で終了している。それは何故だか判明してはいない。しかし、前回も前々回も三日で終了している。更に何故か両国とも食料を戦場で三日保つ分しか持ってきていない。


現在二日目がもうすぐ終了しようとしている。これまでの小競り合いと同じならこの戦いは明日で終了する。


この二人は話すのが楽しすぎた所為でその事がすっかり頭から抜けていた。


『明日が終わればミリスタリアに会えなくなる……』

『明日が終わればイルムに会えなくなる……』


拒絶感、現実を受け入れる事が出来ない。これまで何度も出会いと別れがあったが、ここまで激しいものは両親を失った時に次いでいる。


イルムの顔が無意識に暗くなる。


ミリスタリアはこれまで別れという経験が無い。戦争で自国の同士達を失った事はあったが、ミリスタリアが普段から親交している相手は幸運にも誰もミリスタリアの元から離れていかなかった。


経験の無いこの感情。ミリスタリアの頰を涙が伝う。


「み、ミリスタリア様?」

「あ、あれ?ど、どうして泣いて……」


とめどなく涙が流れる。自分の意思とは関係なく涙が流れ続ける。


「ごめっ……なさい……明日……お別れだと思うと……う、うわぁぁぁ〜ん!」


ミリスタリアは膝を折り大泣きする。アリアはミリスタリアを何とか落ち着かせようとオロオロしている。


イルムはミリスタリアの涙を見る。『何で俺とミリスタリアは敵同士なんだ』行き場の無い怒りがイルムの中で渦巻く。


明日で終わり。


「……姫様、イルム……様とお別れになりたく無いのですね?」

「そ、そんなのっ……えぐっ……当たり前じゃ無い……ですかっ……」

「……もし、姫様の覚悟がおありでしたらご提案がございます」

「て、提案?ですか?」

「これにはイルム……様にもお聴きしてもらいたい事になります」

「……俺もか?」

「ミリスタリア様がイルム……様と離れたく無いという事に対しての提案ですから当たり前です」


提案、それがどういうものなのかは分からないが、今はとにかくミリスタリアと離れたく無い。この戦争が終わったらミリスタリアは勿論帰ってしまうだろう。


ここでのアリアさんの提案が、何よりの『救い』に見えてならなかった。


「ミリスタリアのお祖母様、ブリテニア様からのお手紙です」

「おばあさま……?」


アリアは懐から一枚の封筒を取り出す。


「ブリテニア様がいつかミリスタリアが決断に迷った時にお渡しするように言われたものになります」


ミリスタリアは封筒から一枚の便箋を取り出す。


「あ、この手紙についてはイルム……様はご遠慮願います」

「……分かった」


相手の王家に関する事だ。俺が見れるものじゃない。が、本当は見たくてたまらない。俺とミリスタリアに関わる事なら。



俺は今どんな表情をしているだろう。



きっと酷い顔をしてるだろう。









side ミリスタリア



やっぱりイルムとは離れたくない、それについての自分の気持ちはハッキリと自覚した。しかし、これからの私の決断が、多くの人に迷惑をかけて、命を奪う行為になりそうで……怖い。


アリアから受け取った、封筒から便箋を取り出す。


お婆様からの手紙。何時も私に優しくしてくれる、お婆様。


『ミリスタリア、この手紙を見ているという事は貴方は大きな選択を迫られているという事です。アリアがそう判断したのなら間違いじゃないでしょう。さて、私がこの手紙で貴方に言いたい事は一つです。『自分のやりたい事をやりなさい』。きっと貴方は自分を抑圧してこれまで生きてきたでしょう?国の為、みんなの為と。貴方が国の為に動くなら私は愛する娘のために尽くします。私は貴方がした決断なら貴方を味方するから。『逃げても良いのですよ?』。あぁ、この手紙が開かれたら私に自動で連絡が行くので、わざわざ私に伝えに来なくても大丈夫です。


ブリテニア・ザンダリウス』


……え?お、お婆様?


「ミリスタリア様も女性だから、いつか意中の人と出会った時に渡せ、と申しつけられています」

「は、はぁ?」

「お婆様はこの事を予測しておりました」

「そ、そこもそうですけど!い、意中の人って!?」


あ、そこに反応するのですね……。アリアは少し呆れた。


「はぁ……、昨日からのミリスタリア様は様子がおかしかったですよ?」


様子がおかしい?た、確かにちょっと浮かれてました?かね?


「急に化粧して、 急に顔を緩ませたり、何もない所をボーッと見つめてたり」

「……それって、もしかして私ですか?」

「自覚がなかったのですか?」

「ん〜〜っ!!?」


アリアに言われ、顔が赤くなる。今日私何回顔を赤くしているのでしょう……。


「少しは元気が出ましたか?」

「……!」


確かに、さっきまで暗い気分だったのが、少し良くなった。


「私は姫様の為に此処に居ます」

「アリア……」

「だから、一回ぐらい我儘してもいいんじゃないですか?」

「……そうなのですかね……?」

「はい」


アリアの言葉でなんだかスッとした気がする。お婆様だって、私の事を……。


……………。


アリアもお婆様も私の事を応援してくれているのに、私が優柔不断なんですかね?


イルムさんの顔を見る。顔が強張っているが、やはりカッコいい。その顔が笑顔ならもっと魅力的なのに……。


「ふふ、ふふっふふふふ」

「ひ、姫様?」

「ええ、ええ!わかりましたとも!逃げますよ!逃げてやりましょう!」

「……姫様」

「もう開き直ってやります!イルムさーーーーーーん!」


ミリスタリアはイルムの元に走って行った。


「はぁ、世話が焼けるご主人様ですね」


向こうではイルム……とミリスタリア様がワーワー騒いでいる。


「……逃げるにしても……イルム…………貴方が姫様を悲しませるような事をするなら……」







「私は貴方に容赦はしません」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る