卑怯な事をしました。
sideミリスタリア
イルムと別れて十分程。私は元来た方向に歩を進めていた。
(ま、まさかイルムが『アレ』に勝っちゃうなんて……)
先程イルム行った腕相撲。イルムからしたらいきなりミリスタリアからやろうと迫られて意味不明だったが、ミリスタリアからしたら重要も重要。
イルムに言いそびれているもう一つの条件。『ミリスタリアに力の勝負で勝つ』という条件である。この条件はミリスタリア本人が出したわけでは無い。イルムに告げている『最低限の身分』と『犯罪歴が無い』というのでは対象者が多すぎる。しかしどんな条件を追加で出せば良いのかミリスタリアには見当も付かなかった。
そこで助け舟を出したのはメイドのアリアである。
『ミリスタリア様は馬鹿みたいに力が強いんですからそれでも条件に出したらどうですか?』
この謎の一言により第三の条件として『ミリスタリアに力の勝負で勝つ』が追加された。この一見意味不明な条件だが、効果は覿面だった。当初はミリスタリアに対して勝負を挑む者が後を絶えなかったが、勝負を挑まれたミリスタリアが全勝。男性すら容易に打ち倒す姿は男女問わず魅了したという。
しかしこの条件は先程イルムがクリアした。多少油断があったとしても条件は条件だ。それに条件の中に『ザンダリウス国の者に限る』という条件があるわけでも無い。
『イルムとだったら婚約出来る』
この自覚がミリスタリアの脳をオーバーヒートさせる。戦場では恐ろしい程回転が早いが今はイルムのことで頭が一杯だった。
もしイルムに出会う前のミリスタリアが現在のミリスタリアを見た場合『会って2日目の人に……』と引かれている。
頭をオーバーヒートさせながら、ザンダリウスの陣へ向かっていると一つの気配を感じる。日頃から感じる慣れた気配。少しすると相手も気がついたようでこちらへ走ってくる。
「ミリスタリア様!」
銀色の髪を後ろで束ね、メイド服を着ている少女が姿をあらわす。
「アリア」
ミリスタリアのお付きのアリアである。その姿はミリスタリアにも引けを取らず美しい。
「大丈夫ですか!お怪我は?」
「怪我があるように見えますか?」
「私が待機している所まで轟音が響いてきたんですよ?」
「それが私が原因だって根拠は?」
「い、いえ」
「アリアは過保護ですね」
「私はミリスタリア様が心配なのです」
憂わしげな表情でアリアがミリスタリアに向かって叫ぶ。アリアはミリスタリアに対しては少々行き過ぎる考えをする事がある。正直アリアはミリスタリアが婚約する条件を発表しているのにあまり良いイメージを持っていない。
それを昔から一緒にいるミリスタリアは尚の事イルムと一緒にいることをアリアに知られる訳には行かなかった。
「アリア、お願いします。私の事は大丈夫ですから」
「しかし、姫様はあの『東の切り札』と戦っていたのですよね」
「あーまぁ……そうですね」
一応先程イルムとは戦った、腕相撲だが。
「アリア、詳しい事は話せないのですけど、大袈裟かもしれませんが今回の事には私の人生が掛かっているのです」
「人生 ?」
お伽話のような運命の出会い。子供の頃から夢見た光景が今現実になるかもしれない。そしてイルムも決して私に嫌な気持ちを持ってはいないはずだ。
思い出される昨日の会話。『離れたく無い』と言ってくれた。あの時の事を思い浮かべるとどうしても周りの物事に集中できなくなってしまう。イルムと居るとそのような状態がずっと続く。
こんな気持ちは分からない、知らない。少なくともこれまでに経験はした事は無い。
ーー様?ミリスタリア様!」
ミリスタリアがボーッとしていると、普段では見せないミリスタリアの腑抜けた顔を案じたのか、アリアが覗き込んで来ていた。
「ハッーーい、いえ!?私は幸せな妄想などしてはいませんよ!」
「な、何を仰られているのか分かりませんが『東の切り札』と戦うんですね。私もお供致します」
「さ、さっきも言いましたけど私の人生が掛かっているんです」
「なら尚の事です」
アリアは頑なで一歩も引く様子は無い。こうなったらアリアは意地でも退かないだろう。これまでこの状況でミリスタリアがアリアを説得出来た試しがない。アリアとの口喧嘩に対してはミリスタリアは全敗中なのだ。
「こ、今回だけは譲れません!アリアは今すぐ帰って下さい!」
「ミリスタリア様、我が儘を仰らないで下さい」
「我が儘なのはアリアも同じでしょう!」
「ミリスタリア様、ご自分の安全をお考えください」
「アリアは分からず屋です!もう怒りました!」
これまで私が使ったことが無かった最終兵器。余りにも卑怯で卑劣。王家に連なる者として私欲でこの力を使うなんて……。しかし、イルムとの事を知られる訳にはいかない。
「ザンダリウス王家に連なる者として命令します!陣に帰りなさい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます