馬鹿力でした。
「ぐ、ぐぅぅぅぅぅ!!!」
「むううううううううう!」
腕相撲が始まった。勿論、二人とも本気である。
「……つ、強い…な」
「イルムさん……も……ですよ」
西国でミリスタリアは負け無し。それは腕相撲でも同じ事だった。ミリスタリアの腕は決して太くはない。というかミリスタリアの体は一見すると只のお姫様にしか見えないのだ。しかし、腕相撲では負け無し。正に生命の神秘である。この下細い腕のどこにこんな力が秘められているのか。
しかし、それはイルムも同じである。イルムの腕も一見しても一般男性と変わりはない。しかしミリスタリアと拮抗している。どちらもとんでもない程の馬鹿力なのだ。
「……」
「……」
話す余裕も無くなり、只々腕に力を込め続ける。すると二人の馬鹿力に耐えきれ無かったのか、木の切り株にヒビが入り始める。
((もう時間が無い!))
二人は互いに限界の力を込める!。顔は赤くなり切り株のヒビが大きくなっていく。
瞬間。
ミリスタリアはイルムの顔を覗きこんだ。
「うらああああああああああ!」
ドッゴォォォォォォォン!
イルムの腕がミリスタリアの腕を90度倒し、切り株に接触させた。その衝撃に耐えられ無かったのか、触れた瞬間物凄い衝撃音が辺りに響き、切り株は消滅し、土を削り取り、クレーターを出現させた。
「ハァ……ハァ」
二人とも疲弊している。クレーターの中心で二人とも仰向けで倒れている。肩で息をしてており、二人が話せるようになるまで数分掛かった。
「ま、ま、負け……ました……」
負けたというのにミリスタリアの顔はどこか清々しいものであり、勝ったイルムは満面の笑みである。
「か、勝った!」
あの『西の姫騎士』に勝った(腕相撲で)という達成感で打ち震えていた。
「む、むうううううううう!もう一回!もう一回です!」
「い、いや。流石に直ぐはちょっと……」
「悔しいんです!これまで負けた事無かったから!」
「流石に連戦は無理だぞ」
「ならまた今度やりましょう?」
「お、おう」
イルムがミリスタリアに再戦をぐいぐい迫られていると、ミリスタリアの腕輪から声が響く。
『大丈夫ですかミリスタリア様!今そちらに向かいます!』
この腕輪、実はミリスタリアだけでなくイルムも付けている。この腕輪は一種の通信機器で、軍の重要人物にしか渡されていない。しかし通信は一方的なもので、親機となる機器から子機である腕輪に対してしか音声を飛ばせない。更に大体の位置情報が親機側に送信されている。
「イルム……どうしましょう、アリアがこちらに来るみたいです」
アリア、ミリスタリアとの話で度々出てきているミリスタリア専属のメイド。この二人は相当仲が良いらしく、ミリスタリアもアリアと話すときは自然と笑顔になっている。
「やっぱりさっきの腕相撲の音が原因か?」
「……その、アリアさんは一人で来て大丈夫なのか?」
勿論今は戦闘中。ここまで一人で来るとなればこちら側の兵士に攻撃されるかもしれない。
「あぁ、兵士でも連れて来るのか?それなら俺は退去した方が……」
「いえ、多分アリアは一人で来ます」
「一人で?」
「ええ」
ミリスタリアは勿論!と自信満々に頷く。
「アリアは戦えるので大丈夫です」
「え?メイドなのに?」
アリア、正しくはアリア・ムドフェリア。メイドという事で勿論女性である。生まれた時から、ミリスタリアに仕える事が決められていた。そのせいもあってか幼い頃から一緒に暮らしている二人は大変仲が良い。そしてアリアはミリスタリアよりも早く戦闘訓練を行なっている。幼い頃はアリアがミリスタリアの護衛という事もあった。しかし現在では実力は逆転しているが。
「取り敢えず、アリアはそこらの一般兵には絶対に負けないですよ?」
「へぇ……」
どちらにせよ、腕輪の情報を元にここに人が来るのだ。こんな二人で仲睦まじく話をしていたらイルムもミリスタリアも立場が危うい。
「なら俺はここで退去した方が良いのかもな」
「えっ……」
ミリスタリアが悲しそうな表情をする。
「だってバレる訳にはいかないじゃないか」
「で、でも。今日まだまだ話したい事が沢山……」
「でもここにいたら確実にバレるじゃないか」
「……追い返します」
「えぇ……?」
まさかそこまでするのか。……話すためだけに。
「そこまでしなくても……」
「……私とお話したくないんですか?」
「い、いや!決してそんな事は無い!です!」
ミリスタリアに詰め寄られ、恥ずかしさでどぎまぎしながらも本心を口にする。正直ミリスタリアと話す時間は楽しかったし、時間を忘れられた。こんな事訓練以外では初めてである。出来ればもっと長くこの時間を過ごしたい。
「私に任せて下さい。なんたって西で負け無しですから!」
ミリスタリアは仁王立ちでドヤ顔を決めている。
「さっき俺に負けたけどな」
「あれは!油断しただけですー!」
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