謎バトルが始まりました。

2日目、今日も戦争が始まる。この戦争は小競り合いだとしても多くの血が流れる。互いに大国、魔法は発達しており、例え四肢が欠損していたとしても死ぬ事はない。但し四肢が回復するような大魔法は国一番の回復術師がやっと使えるぐらいなのだが。


そして、前日『東の切り札』と『西の姫騎士』が激突したという噂が両軍の中で流れた。しかし勝敗というのは引き分け、という線が濃厚だった。互いにケロッと帰ってきたいる為だ。そして互いが『明日、もう一度戦う』と明言している。


そして、現在戦闘中なのだが……。


「うまくいきましたね!」

「ああ、でもこれってバレたら死刑だよな」


戦闘を放棄し、敵と仲良くおしゃべり。間違いなく軍法会議モノだ。


「私なんて王女なんですよ。こんなの国家反逆罪ですね」


ミリスタリアは『私ったらどうかしてるのかもしれません』と呟く。事実、ミリスタリアがこのような違反をするなんて無かった。


「私、こうして異性と二人きりでお話しするなんて初めてですよ」

「それは俺もかな」

「何時も私の側には誰かがいて、寂しくは無かったですけどちょっと不満はありました」

「俺とは逆かな、俺は何時も一人だった。まぁちょっとは寂しかったかな」

「……」

「……」


互いに少し変な空気になったと感じる。少しの沈黙が流れるが、不思議と居心地は悪くない。そうしてミリスタリアが口を開く。


「私、夢があるんです」

「夢?」

「はい。子供っぽい夢ですけどね?聞きたいですか?」

「まぁ興味はあるかな」


この二日間で二人の距離は大幅に近くなっていた。しかし、互いの心中は激しく動揺していた。


(はわ、はわあああああああ!近い近いんですけど!)


昨日は互いに警戒していた事もあり、人一人分の距離があったが、今日はお互いに警戒ゼロ。距離は拳一つ分ほどしかない。イルムとの距離が近くなり、顔が昨日よりも鮮明に見える。その事を意識してしまうと、やはり顔が熱くなる。


(ミリスタリア、化粧してるのか?や、やばい。かわいすぎる)


今日はミリスタリアはイルムを意識して薄いが化粧をしている。そのせいもあってか、ミリスタリアは戦争が始まる前にも関わらず多くの貴族から甘い言葉を掛けられた。しかし、現在ミリスタリアはイルムに夢中も夢中。そこらへんの貴族にになんて目もくれなかった。その化粧の効果はミリスタリアの目論見通り、イルムの心にダイレクトアタックしていた。


「そ、それでですね。私の夢なんですが」

「うん」


ミリスタリアは意を決してこの言葉を口にする。


「“好きな人のお嫁さんになって一生を添い遂げる事”です」


それはイルムにとって想像以上に可愛い願いだった。まさか西で最強の『姫騎士』様がそんな可愛い事を願っているなんて。


「可愛いな」


思わずこの言葉がイルムの口から出てきた。その顔は笑みを浮かべている。


「わ、笑わないで下さい!」

「い、いや、別にバカにしてる訳ではないんだぞ?」

「私だって本気なのですから!」

「あーだから昨日言ってた婚約者の条件みたいなの作ってるって話したんだな」


昨日話した内容の中で、ミリスタリアが婚約者として認める条件という話があった。まず第一に『最低限の身分がある事』。最低限の身分とは平民も含まれる。第二に『犯罪歴が無い者』これは当然である。そして第三として……。


「あれ、そういえば三つ目の条件って?」

「あ、そうそう。それ言い忘れたんです」


そういうとミリスタリアが顔を赤くし、俯く。


「……?どうしたんだ?」

「イルム 」

「は、はい」

「ちょ、ちょっとお願いがあるんですけど」



〜〜〜



木の切り株を挟んで向かい合う二人。二人とも帯剣しておらず決していがみ合うような雰囲気でもない。


「イルムは左利きですか?」

「いや、右利きだけど」

「ならいいです。さぁ腕を出してください」


切り株に肘をつき、手を繋ぐ。


「な、なぁ。本当にやるのか?」

「えぇ、私は本気です」

「……いきなりどうしたんだ?」

「お願いします」


ミリスタリアはイルムの顔を見つめる。これまでミリスタリアの顔は赤くなったり笑顔になったり驚いたりで忙しそうだったが、少なくとも会ってからこのような顔は見せていない。


「分かった」


今からこの二人が行うのは『腕相撲』である。何故かミリスタリアがやろうと言ってキリが無かったので、不思議に思いながらもイルムが了承した形である。


「……じゃあこの金貨が落ちたら開始という事にします」

「分かった」

「身体強化などは無しですよ?」

「分かってるって」


ミリスタリアが西国の金貨を左手の指で摘み、上に弾いた。

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