ロベリア

私の父アズラエルは、イブという人間の女性と恋に落ち、私を儲けた。私はロベリアという名を与えられ、天使と人間のハーフとして生を受けたが、人間の世界は汚濁が多く成長の妨げになるという理由で、父が私を引き取り天界へ連れて帰り、私は天界で修業をし、年は15となっていた。


父が手を下せなかったのは、私の母イブであった。母は姿形が私を生んだ頃と比較し衰えることが無く、父はその姿を見て、手を下すことができなかったそうである。


「ロベリアよ。私は君の母イブを愛している。幾ら神命とはいえ、手を下すことなどできない。もう罰を受ける覚悟はできている。母に会ってきてはどうだろうか?」


私はコロニーへ降り立ち、母と再会した。人間の屍だらけのコロニー街の中で、母は一人路上で立ちすくんでいた。


「お母さん。私よ。ロベリアよ。天界から降りてきたの。」


私は胸がいっぱいになった。母も私を見て、顔をくしゃくしゃにした。


「ロベリア!」


私と母は暫く抱き合っていた。


「ロベリア、もう人間は滅ぶのね。

 このコロニーに居る人は、みんな魂を抜かれてしまった。」


「うん…お父さんが、最後にお母さんと会ってこいって。」


私は母のお腹が大きいことに気がついた。もしかして…


「お母さん…もしかして、お腹に赤ちゃんがいるの?」


「うん…」


母が少し申し訳なさそうにする。父以外に人間の男と通じていたことに罪悪感を持っていたのだと思うが、私にとってそれはあまり関係のないことであった。


「私に弟か妹ができるのね!」


人間がもう滅亡する予定であることをすっかり忘れて私ははしゃいだ。

私にとって弟か妹ができる喜びの方が圧倒的であった。

その時、丁度父が天界から母の元へ降りてきた。


「あなた!」


「イブ!」


二人は暫く抱き合っていた。


「イブ、私を許してくれ。幾ら神命だとはいえこんな残酷なことをしてしまった私を。

 ロベリアを連れて天界へ戻ってしまった後、君に何もできなかった私を。」


「いいわ、そんなこと。こうしてまた会えたんだから。」


「イブ、それより地球はもう駄目だ。君はこのポッドに乗って生き延びるんだ。私が密かに開発したもので、異次元をワープできる。神の手も及ばない『もう一つの地球』へ行ける。」


父がポッドを持ちだした時に、近くのビルでガラガラという大きな音が聞こえた。人のような気配がしたので、私たち三人は訝しげにそちらに視線をやった。

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