地球最後の話

Aska

アズラエル

「主よ、本当に実行されるのですか。」


当時、人類は核戦争によって汚染した地上を避け、残った僅かな同胞と共に、とあるコロニーで生活していた。


「構わぬ。やれ。

 核戦争を起こした時点で処断すべきだったのだ。」


50億人ほど居た人類は数百万に減った。コロニーとて無限ではなく、燃料や食料の確保に限界がある。


「我々の子を自ら処断しなければなりませんか。

 人類史を悲劇の結末で締めくくらなければならないとは悲しいことです。」


翼の生えた大天使が、主と呼ぶ白髪の老人に話しかける。


「我が与えたこの地球の、空気も、水も、森も、全て与えられて当然だと思い我が物顔で振る舞ってきた自業自得の結末だ。

 いずれ放置しておいても滅ぶ。遅いか早いかだけだ。アズラエルよ。」


アズラエルと呼ばれた天使がうつむく。残った人類を処断せよという決断は当然彼にとっても胸が痛むことである。それが幾ら神命であっても。神も天使も、人類を愛しているのである。


「主の命とあらば。実行致します。

 私は死を司る天使。彼らが苦しまずに絶命させることなど、造作もないこと。」


アズラエルは苦しそうであったが、神の命とあれば実行しなければならない。


「これだけ地球を荒らされてしまっては、再興もそう容易いことではない。我も忍耐強く待っていたが、殆どの人間はそれに気づこうともしない。」


しかして神は人類を見捨てる決断をし、アズラエルにより残った人類を苦しまずに処断するという命が下されたのである。


アズラエルは部下の天使たちと共にコロニーへ降りた。アズラエルの配下の天使に触れただけで人間は霊魂を抜かれ、人間は絶命し、その場に倒れた。それを数百万の人間に対して一斉に行ったため、ありとあらゆる場所で人間の屍が倒れているという異様な光景となっていた。


この「神の処断」に対し人々は畏れをなして逃げ回ったが、神の智慧と力を与えられている天使たちに為すすべもなく、滅亡も時間の問題であった。


「苦しみながら死を迎えるより、私たちが処断する方が遥かに楽に死ねることは確か、だけれども…」


アズラエルと部下の天使たちは、全ての人間の霊魂を抜き、人類を滅亡させた。最後、コロニーは地球へと落下させられ、海深く沈められたという。


これが、私の父である、大天使アズラエルが地球で人類を滅亡させた所業である。だが、父によれば、最後一人だけ情が邪魔をし処断できないとある女性がいたという。

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