ショーアがちょっとだけ怖かった
「朝っぱらから何の話をしてるんですか」
ショーアの意見に全く同意だ。
することがなくて時間を持て余している、という状況は理解できる。
暇つぶしの道具を持ち込む余裕はないはずだからな。
だからといって、俺をいじるにしても、話題があまりに退屈過ぎないか?
「ショーアは彼氏とかいるの?」
露骨すぎだろそれ。
自分で自分を恥ずかしいと思わんか?
「それどころじゃありませんからね。それに……恋愛より憧れの対象はいますけど」
「え? 誰?」
なんかこう、部屋の雰囲気が一気に変わったぞ?
ここにいる連中が、おそらく聞き耳立てている。間違いなく。
だが俺が、その雰囲気をぶち壊す!
「彼氏なだけに、カレーだろ? 献身を主義としてるこいつが、それを捻じ曲げるほどの力を持つ恐るべき料理、カレー……」
……うん。
ぶち壊した。
冷たい視線を浴びようとも、俺はだらけそうになる雰囲気になることを回避させたのだ!
ここは日向ぼっこができる長閑な縁側などではない。
再び死地に赴く冒険者達に与える、わずかな寛ぎの場なのだ!
「コウジさん……」
「何でしょうか? 『聖女』ショーアさん」
ショーアのにこにこした顔の額に、何か青筋のようなものが見えるんですが、気のせいですよね?
「気だるくなっていく雰囲気が人を死なせることもあるんですから、気を付けていただきたいのですが?」
「そんな雰囲気の部屋から出て行っても簡単に死にそうにない人の場合、とっとと出発してもらう方が安全なケースもあるのですが?」
「……今は仕事に集中しません?」
「したいんだが、こいつらが話しかけてくる。無視してもいいが、雰囲気は殺伐になる。治療に専念できれば何でもいいだろうが、ここは俺の家の一部だからな? それを忘れるなよ?」
ショーアは視線を俺から男戦士ともう一人の冒険者に視線を移した。
「あ……あ、俺、もう少しこの部屋で休ませてもらいたい気が」
「お、俺も……」
ヘラヘラしてた顔が、一瞬にして青ざめる。
人のこと、笑えねぇだろ?
「……体力は戻っても、気力がまだ回復しない場合もあります。……自重してくださいね?」
「「は、はい……」」
だから、この部屋の主は誰か分かってるかね、ここにいる全員は。
※※※※※ ※※※※※
「私の家族、ですか?」
握り飯の時間が終わった後も、あの男戦士がショーアに聞いている。
しつこい性格だったのか?
「診療所なんて町中にもあるしさ。確かに現場にきちんとした施設の診療所がありゃ安心だけど、そこで働いてる人の家族は気が気じゃないだろう?」
やましい気持ちで質問したわけではなさそうだ。
確かに、家族がいたら心配するだろうな。
「俺らは仕事が終われば家に帰る。けどそっちはそうじゃなさそうだよな。いくつも診療所抱えてるんだろ?」
「私はもう一人立ちしてますし、一緒に住んでる家族に任せてます」
その言い方だと、大家族って感じがするな。
ま、こっちに問題起こさなきゃどうでもいいけど。
「……コウジさんのご家族は?」
……この話って、ここに押しかけてくる奴らの人数と同じ回数しなきゃいけないのか?
「一人暮らしだ。細かい説明は面倒くさい」
「あ……ごめんなさい……」
何か、勘違いしてるな。
もっとも誤解を解いたところで、盛り上がる話とも思えんが。
「こっちは気にしねぇよ。下らねぇこと言ってねぇで、仕事するか休むかしてな」
ショーアも指輪の部屋の使い方の要領を得たようで、カートを使って米袋を運び込み始めた。
やらなきゃいけない仕事をやってもらえると、こっちも他の仕事に手が回る。
そういう面では、まぁ有難いことだわな。
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