異性とは言え、特に何の感情も起きないな

 それにしても、だ。

 初めて見る冒険者はともかく、なんでコルトを助けた男戦士までコルトを見て慄いてるんだ?


「そりゃお前、その人物を話題に出すだけなのと、目の前に現れるじゃまるっきり意味が違うだろう」

「助けた相手、しかも年下相手にそうまで腰が引けるか?」

「そうですよ。あの時のこと、今でも感謝してるんですから」

「い、いや、あはは……」


 地位や立場が変われば、人との距離って変わるもんなんだな。

 もっとも話題がありゃそんなに遠ざかることもないはずだが。


 つまり、異世界人同士の俺とコルトよりは近しくていいと思うんだがなぁ。

 しかしこの額……あの隣に飾ればいいのか?


「ってことは、これに書かれてる文面は、お前には読めるってことだよな? あ、いや、読んでほしくはない」

「そりゃ読めるさ。けど読んでほしいんじゃないのかよ」


 読んでもらっても、それがどんくらいの効力を発揮するか分からねぇしな。

 けど、この額縁、平らだし薄いし……。

 あっ!


「これ、このショーケースの上の台、敷物にちょうどよく」

「ないです」

「意志が感じられない、ひ弱なあのコルトはどこに行ったんだよ。お兄さんは悲しいぞ。……あ、お前の方が」


 ……あ。

 その眼つき、怖い。

 そうだった。

 こいつの方がよっぽど年上だったんだった。


「あ、あの、コウジさん。久しぶりの再会なんでしょう? 再会を祝してささやかな食事会をするのは」

「カレー狙いだな? 多くの人のために働く『聖女』さんが自分の欲求を押し通す」

「コウジさん……相変わらず捻くれてますね。クールな態度は、私には有難かったことはありましたけど、それはどうかなと思うんですよ」


 コルト、ほんとに変わったな。

 地位や立場が人を作る、なんて言うけどな。


 それを成長と呼ぶんだろうが、こいつがいくら俺に感謝しようが、俺には特別感慨深い思いはないな。

 面倒な手間かけさせてくれた、とだけ。

 トラブルはないに越したことはないが、わざわざこんなもん作らんでも、とも思う。


「どのみち握り飯の準備はできてる。今夜の俺らの分もあるぞ。コルト、お前、梅、食うか?」

「食べるっ!」


 食わなきゃならんほど疲弊している様子は微塵もない。

 なんだこの図々しさは。


「というわけだ。カレーはなしな」

「あ……」

「はぅ……」


 何と言うか、人に騙されるタイプになってないか?

 重役といい聖女といい、大丈夫かね? 


 ※※※※※ ※※※※※


 コルトは握り飯を食い終わって、すぐに戻っていった。

 また用事があったら来ますって、どんな用事があるというのやら。


 同じくらい元気そうな男戦士ともう一人は翌朝も駄弁っていた。


「……モテるって感じじゃないんだが……」


 ショーアは基本的な性格は真面目。

 毎日早朝から部屋の掃除をし、それから握り飯の準備をしている俺に合流する。

 その掃除をしてる時に話しかけられた。


「ある意味、モテるって感じだよな」

「何の話だ」

「いや、コウジさ、コルトだろ? シェイラちゃんだろ?」


 王女にちゃんづけか。


「それにショーア。年齢差はともかく、異性にいつも付きまとわれてるって感じするよな」


 話題の乏しさが丸見えだぞ、こいつ。

 無理して話しかけなくてもいいだろうが。


 ……あぁ、そういうことか。


「羨ましいのか? こっちの世界の奴じゃねぇから興味はねぇな。綺麗なものには目が向いちまうのは否定しないけどな」

「へぇ、そんなもんかね。子供っぽかったから、コルトにはそうは思うことはなかったが、すっかり手に届かない存在になっちまったもんなぁ」


 コルトにはちゃん付けられなくなったか。

 けどなぁ。


「ここから出た直後は、強い魔物がいるんだろ? そんなのんびりした話してていいのか?」

「ちょっ! 現実に戻すなよ。少しぐらいゆっくりさせてくれよ」


 お前を始め、何度もここに来る奴らはゆっくりしすぎなんだよ!

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