やっぱりこいつもダメダメだった?!

「お? 何だ? コウジ。昼飯食わせてくれるのか?」

「言っとくが、今日から、じゃねぇぞ?」

「分かってる分かってる。楽しみにしてるぜ?」


 最近は見覚えのない冒険者達が、やけに馴れ馴れしく話しかけてくることが多くなった気がする。

 まぁ理由は分かる。

 コルトがここに来てから、新規の冒険者の顔は一々覚えていられなくなった。


 あれ?

 あいつが転がり込んでから、もう一年くらいになるのか?

 この一年の間、初めてここに来てから何度か顔を出した奴はいると思う。

 けど、覚えてる人数は、その前よりもはるかに少ない。

 せいぜい、何回か来たよな? という気がするだけだ。


 まぁ……嫌われるよりはましか。

 さて……。


「えーと、俺のしてたこと見てたんだよな? 握り飯を作る。簡単に説明すると、米を炊いて出来上がったご飯で具を包む。周りに海苔を貼り付けて終わり。ナイロンの手袋を使ってくれ」


 素手でもいいが他人に食わせるもんだからな。


「ほかは、俺のしたことを見たままやればいい」

「はい、分かりました。でも一度にたくさん作るんですよね」


 分かってるじゃないか。

 まぁ見てりゃ分かるか。


「食材は米……ご飯って言うんだが、見たことは?」

「似たような食材はあります。白く輝いているように見えるのは初めてです。ちょっと感動しました」


 ちょっとだけ誇らしく思える。

 似たような物体の真珠とか水晶を由来にしたブランド名の米まであったからな。


「じゃあちょっと作ってみるか?」


 作業全てをやらせてみるには、いくら単純作業でも要領が分からなければ難しいだろう。

 適当な量のご飯をボウルにあけて、皿に適当な大きさに分けた具を並べる。

 海苔もちょうどいい大きさに切って重ねて置いておく。

 使わなくてもいいが、塩。そして別のボウルに水を入れておく。


「はい、やってみます」


 まずナイロンの手袋をはめて、……塩?

 手に塩をかけたよこの人。

 まぁ好き好きだけどさ。


「手を水に浸して、ですよね」


 ……好き好きってレベルじゃねぇな。

 手についた塩が水の中に沈んでくんじゃねぇのか?


「水、付けすぎるとばらばらになりそうですよね」

「ん、まあ、そうだな」


 コルトもシェイラも、それをやらかしてたもんな。

 そもそも手から離れやすくするためにつけるもんだからな。

 で……何を考え込んでるんだ?


「先に海苔を敷いた方が早くないですか?」


 は?


 何だって?


「その上にご飯を乗せて……」


 おいおいおい。


「具を乗せて、で、ご飯でくるむようにすると海苔も……」


 いや、お前。

 創作料理でひどい目に遭う人の話は聞くけどさ。

 握り飯でひどい目に遭った話は聞いたことねぇぞ?


「あれ? 握れませんね」


 食材無駄にすんなよ。


 こいつ……どこからどれにどうツッコんだらいいんだ?

 海苔があちこち切れてんじゃねぇか。

 あ~ぁ、海苔の表裏にご飯付きはじめて……。


「……えいっ」


 こ、こいつっ!

 手巻き寿司にしやがったっ!


「はい、出来ました」


 ふざけ……。

 なんだその心に響くほどのにこやかな笑顔はっ!

 こんな時こそこの言葉がふさわしい。


 笑ってごまかすな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る