回復を仕事にしてるショーア=マイラスが来た理由

「それにしても……」

「ん?」


 一見礼儀正しいシルフ族……のショーアと言ったか?

 大きめのカバンを持ち込んでいた。

 つまり、ここで生活することを既に決めてあったってことだろ?

 中に着替えとか入ってるんじゃないか?


 ……ある意味図々しい。

 別方向から見れば、やる気がある。


 図々しい、と俺が解釈するには、これは俺の方が我がままかもしれん。

 異世界の事情とか、知りたいとは思わないからな。

 その出入口が見えないんだからしょうがない。

 さて……。


「俺の噂、お前も聞いてるんだよな?」

「はいっ」


 元気がいい返事。

 だが顔に喜怒哀楽の表情はあまり強く出さない感じ。

 大人っぽさが見えるのは、今までの二人が子供っぽかったからか。


「救世主とか生き返らせてくれる神の使いとか、異世界人とか聞いてます」


 最後は……こいつらにとっちゃ正解だが。


「あと噂じゃないですけど、聖人を育成してくれる場所、なども」

「……安全地帯って話は聞いたことはないのか?」

「それ、噂や言い伝えじゃなくて、いろんな地図にマークされてます」


 名所になってねぇか? それ。


「で、……お前がここに来た目的は?」

「ショーアです。ショーア=マイラス。……私の世界での、コウジさ……んのような存在になりたい、と思いまして……」

「……俺のことをお前が好き勝手に決め付けんなよ? おれはトイレにも行くし、風呂に入らない日もある」


 時々いるよな。

 幼稚園にいるきれいな女性の先生を見て、あの先生は絶対トイレに行かないんだぞ、みたいに決め付ける幼稚園児。


「そこは私と一緒ですね」


 いや、お前は毎日風呂に入れよ。知らんけど。


「つーか、俺みたいな存在って何だよ。具体的に言えよ」


 毎日握り飯を作りたいんです!

 とか言うんじゃねぇだろうな?


「オニギリとやらで、どんな怪我も病気もたちどころに治すっていうじゃありませんか。話に聞けば、庶民的な食べ物らしいですよね? 魔力に頼った回復方法だと、どうしても限度というものが出てくるんです」


 無制限に回復できる方法のヒントが欲しい、か。

 なにも参考にならなかったらどうする気だ?


「もちろん何も得る物はないかもしれないと思うこともあります。ですが、他にも目的がありまして……」


 包み隠さず喋ってくれるなら、まぁ聞き届けてやってもいいがな。


「コウジさ……んの献身さです。噂に流れるほどの活動をされているのですから、どれほど偉大な方なんだろうと」


 過疎化が進む地域での雑貨屋の経営が、異世界人の手によって持ち直してる、そんな店の主ですが何か?

 つーか、さん付けくらい言い慣れろよ。


「……根も葉もない評判だよな、偉大、なんてよ。まぁいいや。手伝う気があるっつーんなら……。料理とか作った経験は?」

「もちろんありますとも」

「……味は?」


 ……黙りやがったこのヤロウ。

 いや、別に料理人の腕前を期待してねぇよ。

 つーか、吐き出すほど不味い握り飯なんて、この世に存在するとは思わねぇし。


「え、えっと人並みには……」

「……いいよ、別に。で……握り飯作ってるの、見てたよな?」

「はい」


 まあ腕試しって意味で、俺らの昼飯ついでに、こいつらにも久々にこの時間帯に握り飯出してやるか。

 こうなることが先に分かってたら、筋子とタラコ、余らせておくべきだったなぁ。

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