今度はショーアって名前らしい 相棒だなんて認めたくはないけどな 

 この仕事、今まで何度も異世界人達から、興味や関心を持たれることはあった。

 しかし、泊りがけされてまで付きまとわれることはなかったな。

 しかも立て続けって感じだ。


 まぁ止めたくても噂ってのは広まるもんだし、尾ひれもつきもの。

 部屋も二つに増えりゃ収容人数も増える。

 認めたくはないが現実逃避したって、噂の人物に会ってみたいと思う相手を立ち入り禁止にはできない。

 俺に出来ることは、そんな押しかけてきたり押し付けられる奴らを遠ざける精一杯の抵抗くらいだ。


 が、この女……もエルフか? はちょっと違った。

 俺の作業をやや離れたところから見学している。

 俺じゃなく、俺の手元を見ている。

 気になるってば気になるが、離れてくれてる分邪魔にはならない。


 が、今やってることは普段の作業とはちょっと違う。

 具を多めにする分ご飯の量もやや増やす。

 見た目三割増しくらいだろうか。

 それを普段の握り飯の大きさに圧縮。

 梅やボ……しゃけはその分使わずに済むから食費は浮くだろうが……。

 具の種類に偏りが出るのがちょっとな。


 けど、人気のある具が多いのは、こいつらもいくらかは満足してくれるだろ。

 それにいつもより重い握り飯だ。食いごたえもあるだろ。


「……ふう……っと、水……紙コップ忘れて……あ?」

「こちら、でしょうか?」

「お……おう……」


 俺を神呼ばわりした女エルフ? がパックごとショーケースの上に置いた。

 盗まれても困るって程じゃないから、ショーケースに鍵をかけてはいない。

 が、無断で勝手に開けたり、物を取り出したりされてもな。


「勝手に取り出して申し訳ありません。ですが、か……コウジ様のお手伝いをしたく……」


 コルト、シェイラみたいに押しかけて来たのとはちょっと様子は違う。

 いきなり自分の都合を押し付けてはこない。

 そこら辺は好感が持てるが……。


「……今俺が何をしてるか分からないだろ? 分からないなら下手に手を出すな」

「あ、は、はい」


 むぅ……。

 素直じゃないか。

 いや、素直すぎるな。

 まぁ問題を起こさなきゃそれでいい。


 ※※※※※ ※※※※※


「コウジ、今朝のは食いごたえ、あるな」

「しかも外れがない。美味いじゃないか」


 結局タラコと筋子だけになっちまった。

 それでも生ものは賞味期限内に消費できた。

 評価も上々。

 でもなぁ。

 コストパフォーマンスがなぁ。

 保存が効かず長持ちしない。

 梅、シャケはその点安心なんだが。


「お疲れさまでした」

「うぉう!」


 びっくりした。

 労を労われるなんて初めてだよな。

 なんというか、あの二人からもそんなことを言われた記憶がないな。

 ここに来る避難者からも、もちろん言われたことはない。

 礼なら何度も言われたが、これほど心に残ったこともない。


 なんせ、握り飯の配給もすべて終わった後だから。

 やることと言えば、紙コップの回収、そしてゴミ袋に入れることくらい。


「えーと……」

「ショーア、です。種族はシルフ。職業は療法師です」

「リョーホーシ?」

「はい。魔術、アイテムなどを使って心や体を癒す仕事をしております」

「……あ、そう……」


 何と言うか。

 何の感想も出てこない。

 自分のことを俺に伝えて、それでどうしたいと言うのか。


「……あの、コウジ様は」

「様、いらねぇ。落ち着かない。つか、見ず知らずの者から様つけて呼ばれる理由がない」


 せいぜい領収書がいいとこだ。


「え、えーと……。あ、う、噂話は聞いております。人族しかいない世界での、普通の人族だということも知ってます。けれども、その行いを聞いた時、だからこそ、まるで神のようだ、と思わずにいられませんでした」


 どもってるなぁ。

 落ち着けよ。


「そ、それでコウジさ……んの元で、もし許されるなら修業してみたい、と思いまして……」


 なんだその白いひげを生やしてそうな導師みたいな扱いは。

 そんな高尚なもんじゃねぇぞ、俺は。


 けど、個室を使ってた奴らと比べたら、まぁそれなりに……。

 身なり……はどこぞの女王並みにヒラヒラ度が多いが、なんかこう、社会に揉まれてきた、みたいな感じがするよな。


「ここを勝手に修業の場にすんな。邪魔したり余計なことをしなければ別に構わんが、勝手にいろいろ決め付けんじゃねえよ」

「なら私もここに住み込みでいさせてもらえるんですね?」


 だから勝手に決め付けんなっての。


「なんで住み込みなんて言えるんだ」

「その噂も聞きました。救世主や遣いの者をそばに置いて、自由に使役したとか」


 俺は一体何者にされてんだ?

 ある意味こいつが一番厄介だぞ?

 いや、救世主の渾名をあいつに押し付けたのは俺だけどさ。


「……分かった分かった。そこの個室、誰かの私物がなければ自由に使っていいからさ。鍵とかはねえし掃除も自分でやってもらうが」

「それだけでも有り難いです。よろしくお願いします」


 いや待て。

 だから中を確認してからにしろっての。

 シェイラはここを出てくときに自分の物そっくり持っていったようだけどさ。


「……掃除道具とかはあるようですが」

「あぁ、それはこっちで用意した奴だ。石鹸とかの日用品も使いかけの物があるなら、それは使っていいぞ」


 ……何だよ、キラキラ輝かせたその目は。


「じゃあ早速今日からお世話になりますねっ」


 俺は誰が相手でも依存したくねぇから、くれぐれも余計なことしてくれるなよ?

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