ショーアってやつぁ……そういう感じか
「コウジ……それ……何?」
「試作品。だからお前らには食わせられん」
手巻き寿司もどきに関心を示した連中が、諦めきれない顔を俺に向ける。
食わせられない理由はある。
まず、癖になっちまうと困るんだ。
俺が作ったのならともかく、ショーアだっていつかはここから去るだろう。
その後で、これを食べたいって奴が現れても対応できない。
だからうどんは食わせることができる。
ここにいる者の中では、俺にしか作れないからな。
「えーと……。ちょっと違う形になっちゃいましたね」
どこがちょっとだ、どこが!
「き、気にしない気にしない」
……天然な性格じゃねぇな。誤魔化そうとしやがったっ。
「……物事には順番ってやつがあるもんなんだよ」
「……はい」
あまり説教臭いことは言いたくはないが、必要なことを順序良く覚えていったから仕事にありつけることができたんじゃないか?
単純作業ということで、効率よく大量生産しようと自分で工夫したつもりか?
前向きな姿勢は大事だと思うが、ただの思い付きとかだったら子供じみた発想だな。
「まずは見様見真似でやれってことだ。創意工夫をすることでお前は今の仕事に就くことができたんだろうけど、初めて見る食材ならいきなり応用より、まずは基本だろ?」
「は、はい」
「その前に」
「は、はい?」
「米袋、運べるか?」
「……重い物は、ちょっと……」
カート、置いといて助かった。
※※※※※ ※※※※※
握り飯タイムに備えて作るその数は百五十。
けど今は臨時の昼食。
できたのは百個。
俺が作った七十個。
初めて作った割には三十個の見た目はまあまあ。
今度は手順も手抜きもなし。
食ってる連中の顔を見りゃ、おれのとショーアのとで、評価に大差なさそうだ。
あとは……ん?
「……じゃないか?」
「あぁ……確かにそうだ」
見知らぬ冒険者二人がこっちに来た。
見覚えがない、のではなく、ここに本当に初めて来た連中のようだ。
「間違いない。聖女様だ」
聖女様ぁ~?
……こいつのことだよな?
俺のわけがねぇ……よな。
「え、えーっと……、コウジ……さん、で、いいんですよね?」
「ん? あぁ。そうだが?」
「やっぱりそうでしたか。お噂は聞いております」
まさか聖女呼ばわりするんじゃないだろうな?
「でもまさか、聖女様が女神様だったとは……」
「とても誇りに思います、聖女様っ!」
聖女……って、ショーアのこと……だよな。
女神様ってば……シェイラがそう呼ばれてたよな。
「え、えっと、わ、私が女神……ですか……? そ、そんな大それたこと……」
いや、お前は今日来たばかりだろうが。
※※※※※ ※※※※※
「は、早とちりをしてしまい、失礼しました」
「何度もお世話になりました聖女様そっくりの方がいらっしゃったので……」
聖女?
「……聖女とはよく言われましたけど……物の例えと言いますか……」
渾名とか二つ名とかだろうな。
「あくまでも私の肩書と職名は、療法師ですから」
病院の先生みたいなもんらしい。
「……で、お前ら二人はこいつを連れ戻しに?」
「こ、こいつ……って……」
「聖女様をこいつ呼ばわりって……」
こいつの素性知らねぇし、功績とかも知らねぇし。
「私の代わりの者は大勢いますし、私はこちらの……コウジさんの元でもう少し精進したいと思いましたので……」
この二人はショーアのことを知っているようだがショーアは覚えてなさそうだ。
こいつのことを連れ戻しに来たわけではなく、たまたま偶然会えたって感じだな。
まぁ来たついでだ。
まだ握り飯がいくつか残っている。
この二人も例にもれず、怪我をしているようだし……。
「……握り飯、食うか?」
「え?」
「あ……おい、噂の安全地帯の部屋のオニギリなんじゃねぇか? もしそうなら……」
「そ、そうだな……。はいっ。有り難くいただきますっ」
こいつらもある程度は礼儀ってもんを知ってるよな。
馴れ馴れしい奴らが多いんで、久々にまともな奴が来たって感じだ。
「……どうだ?」
「んぐ……んぐ……。はい、おいしいです!」
「さすが、聖女様がお作りになったオニギリですねっ!」
おーい。
ちょっと待てー。
「え……えぇっと……」
いや、なんで即座に否定しないんだよ。
「少しここで休ませていただければ、体力万全でここを出発することができそうですっ」
「え……あ、あぁ、そうですか」
「はいっ! では少し休ませていただきますっ」
「え、えぇ、ごゆっくり……」
おいこら。
なんで俺を差し置いてそーゆーこと言うんだお前はっ。
お前もあれか?
やっぱ、どっかずれてるのか?
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