後は、お願いします

「勲章の名として、この首輪を授かりましょう。」


 某国を高台から見渡しながら二人の古き魔法使いがいた。

 この国は他国から魔法具の輸出――開発に特化した国で、この国から出た魔法具は耐久性も性能力もよく、生活のためでなく戦争の道具に使われるほど幅広い世代で使われている。


 そんな国の事情に二人の魔法使いが訪れたのはある理由からだった。

 先日、この国にくる二キロ前で逃げてきた一人の少年と少女を保護しようと試みたことだ。

「助けてください! 母が…父が…殺されてしまいます。どうか、私たちと一緒に助けてもらうよう訴えてほしいのです!」

 喉がガラガラで訴えかけていた。身体は骨と皮ほどやせ細り、まるでミイラのような状態だった。首には鉄製の首輪がつけられており、赤い光がチカチカと点滅していた。

 この先の国は食料不足なのかと目を疑ったほどだ。

「お願いです…どう――か」

 バンっと爆発した。

 鉄製の首輪が爆発したのだ。

 爆発した威力に兄は弟を庇うために左手を失った。

「兄さん!」

 魔法の結界が間に合わず、左手を犠牲に身を挺した。

 隣にいた少年も少女と同様に爆発し、首は木端微塵に吹き飛び、体は頭部を失い地面へ倒れた。ビクビクと痙攣し、首からは血が流れていた。

「すみませんね、お怪我はありませんでしたか?」

 少年少女が走ってきた方から一人の初老の男が歩み寄ってきた。服装は少年少女と比べると暖かい洋服にマントを背負い、首からは宝石のような光り輝く石をぶら下げていた。

「兄さん…」

「この男」

「おやっ!」

 初老の男は気づき、兄に駆け寄った。

「これは一大事だ! 今すぐに修復します」

 そう言って、取り出した機材(マジックシールを機械化したもの。見た目は四角形の缶詰)を取り出し、失った腕にはめた。

「これで、すぐに修復しますよ」

「まるで機械を直すような言い分だな」

 兄はスパッと言った。

 人の身体は機械と同じだと初老の男が言った風に聞こえたからだ。兄に睨まれ、初老は一旦停止した。まるで予想外の言葉を投げかけられ停止したロボットのように。無表情な顔はそれを語っていた。

「回復しました。これでよろしいでしょう」

 言い直した割には思考が止まっていた風にも見えた。

 失ったはずの左手は確かに元通りになっていた。回復魔法と修復魔法、再生魔法、完治魔法と復讐の魔法系統を組み合わせる難題の魔法をいともたやすく直した。習得が困難だった魔法をいともあっさりとやって見せた。

 この初老の男が持つ機械は噂通り、この国は魔法使いにとって挑発的な国だと思った。

 「さて――」

 初老の男は倒れた二人の遺体を蹴るかのように足で何度も何度も踏みつけながら「このクズどもが! ネズミが逃げ出したから外出を許可したのに! 俺の顔を泥塗りやがって! お前らは口答えする許可を出したわけじゃねーぞ!!」と顔もない彼らの身体の骨がボキボキと音を立てながら、粉々にするまで繰り返そうとしていた。

 それを見ていた兄が止めた。

「よせ!」

 初老の男は兄を睨みつけ、「なぜ止めるのですか。ペットが問題が起こしたのなら謝りますが、飼い主である私が責任もって、こいつらを始末しておきますので、どうか穏便に…」

 そう言って、さっさとビニール袋を取り出し、二人の遺体を処理し始めた。

 兄は弟を連れて、この先にある国へ足を速めた。



 国に入るのは簡単だった。

 商人たちがこぞって入るほど人気商品が多く、また観光名所として三位に入るほど人気スポット。荷物検査ゲートを潜り抜ければ、晴れて自由の身。門番でいちいち説明をしたり、ルールを伝えたり、装備品や荷物を没収されることなく通れると、安心な気持ちになる。

「思った通りだな」

 想像通りだと弟は思った。兄がこの国の偉大さに反吐が出ると口にしていたが、どうやら冗談だったようだ。

「観光していこう!」

 兄の提案に弟は乗った。

 ゆくゆく人々は笑顔で、みんな首輪は着けておらず、裕福そうな服を身に着けて歩いていた。あの子たちのようなぼろ布のような服を身に着けた人は見かけなかった。

「なんか、食べて行こうか」

 弟は頷き、近くにあった食堂や喫茶店、屋台などを巡って食事にありつけた。どこもかしこも味が悪いところはなく、うまい。

 喉が火傷しそうになるほど味が濃いわけでもなし、ドロドロになるほどまで濁っているわけでもない。高値で買わせるために薄味にしているわけでもない。味をごまかそうと薬味や砂糖を入れているわけでもない。

「何か買っていくか」

 雑貨屋により、兄は弟にこれはどうだ、あれもどうだといろいろと攻めてくる。兄のやんちゃぶりにげんなりとするが、兄が久しぶりに楽しんでいるのを見ると嬉しくなる。

「あそこに泊まるか」

 高そうなホテルだ。八階建てのビルだ。高くそびえたち、屋上からは湯気が立ち上っているのが見える。

「当店は屋上に露天風呂がございます。予約なしで泊めれます」

 と受付嬢に兄は頷き、二人で泊まることができた。

 七階の一番奥の部屋に泊まり、外を見渡し、室内温泉に入りながら一息つく。

「思った通りだな」

 酒の席でベランダから外の景色を見ながら兄は言った。

 先ほども、同じ言葉をつぶやいていたのを思い出し、どういう意味なのだと兄に尋ねた。

「この国はウソとクズの巣窟だってことだよ」

 兄は歯を噛みしめ、外でわらわらと平然に観光している奴らを見下した。言っている意味が分からないと兄に尋ねると、兄は弟の頭を軽く手を置き、「温泉に行ってみるか。一生に一度しかこれないからな」と、風呂の支度をしてさっさと行ってしまった。

 なにが言いたかったのか理由を得ることができず、自身の右手を見つめながら、考えた。でも、なにも浮かばなかった。楽しそうに笑っている兄の顔が浮かぶだけで、なにが気に食わないのか、さっぱりと答えが出なかった。

「おーい! 置いていくぞ」

「ま、まってよ!」

 兄に呼ばれ、さっさと仕度して屋上へ昇った。



 路地裏で二人の男女が殺された。

 首輪が爆発し、頭を失った身体は地面へと倒れる。爆発した音は響き、表通り歩いている観光客は誰一人反応しなかった。

 倒れている二人を見ぬふりをしているのかそれとも何かを恐れているのか。弟はひとり、この国を歩きながら、見ていた。


 屋上露天風呂を堪能した後、兄が「そういえば、お土産買ってなかったな。外へ行って買ってきてくれないか」と布団の中ですっかりとくつろいでいるさなか言うので、ベランダで腰かけ本を読んでいた弟は断った。

「自分で行けばいい」

 兄は布団の中から振り返り、弟を見つめながらこう言った。

「先ほどの言葉の意味を知りたかったら、俺から答えを得る前に外を見てこい。それと、俺は疲れたから、お前に託す」

 そう言って、寝てしまった。

 弟はため息を吐き、渋々外へ出かけた。


「ったく兄はいつもそうだ! あれやれ、これやれと言っておいて…結局、俺がいかされる……意思ようぇーな」

 ブツブツとつぶやきながら表通りを歩いていた。

 角を曲がろうとしたとき、走ってきた一人の少女とぶつかった。

 少女は力なく転がり、持ってたであろうパンを落とした。

「こりゃー! この盗人が!!」

 奥の方で怒りながら走ってくる。灯りが近づくになるにつれ、その姿が判明する。途中で出会った初老の男だった。

 少女の頭を蹴りを入れ、踏みつける。

「盗人が! 俺の顔を泥塗りやがって! どうしてくれるんだよー!!」

 少女は泣きながら、顔を地面にこすりながら声を出さないようにとじっとこらえていた。

「おい! 聞いているのか! 泣いていても終わんねーぞ! 言葉に出せ! 言葉で!」

 初老と男は謝れば済むと言っているが、頑なに少女は声を発しなかった。

 このことに気づき、弟は初老の男に言った。

「別にいいですよ。夜道ですし、角を曲がるときに見なかった俺も悪かったので…」

 すると、初老の男は少女を無理やり抱き起し、「俺に恥をかきやがってクズが!」と指になにか力を籠めるのを見た。

 その瞬間、少女の首が爆発した。

「だからよー言ったじゃねーか! ガハハハ!!」

 初老の男は笑っていた。大声で。それなのに、他の観光客おろか商人も魔法使いも誰も声を掛けようとも近づくこともしなかった。

 みんな恐れていたんだ。

 この国ははじめっから、腐っていたことに。

 気づいたのは、兄が身を挺して、少女を救ったという現場を目撃した後からだ。


「大丈夫か…けがはないね」

 兄が爆発で消し飛んだはずの少女に向けて優しく声をかけていた。安全かどうか、首がないのになぜ怪我がないのか聞けるのか、初老の男は疑問を浮かべていた。弟も同じだった。

「はい…」

「「!!?」」

 爆発で吹き飛んだはずの少女の首は無事で兄の両腕も無事だった。爆発したのはあくまで首輪の枷だけだった。

「おい、お前……それを助けたのか?」

「助けたさ。弱きものを助けて理由が必要か!?」

「このクズを…ごみのような存在を…俺の目の前で救いやがって…ふざけやがって…」

 初老の男はカッカッと怒りをこみ上げていた。堪忍袋の緒が切れる。切れかけていた。

「すぐに転移しろ!」

 兄の言葉に従って、すぐにマジックツールを使った。

 初老の男はこちらを睨みつけながら「テメェーら 生きて帰れると思うなよ…」と恨みを込めて言い放っていた。



 ホテルに戻り、助けた少女からお礼とともにこの国のブラックなことを教えてもらった。

 この国は、貧民、平民、王族と別れている。

 王族は平民と貧民から税をとれるだけ奪い取り、平然と裕福な暮らしをしている。また、平民や貧民から手に入れたアイディアや発明品を取り上げ、自分の名声として売りに出していることも。王族はやりたい放題で、貧民や平民を痛みつけては、従えないようにしていた。

 それでも歯向かうものがいたので、王族たちは貧民や平民たちを首輪という枷をつけることで、反乱を事前に止めるように仕向けた。

 生まれたばかりの赤ん坊を『誕生日プレゼント』だと称して、爆発性の首輪をつけ、自由を封していた。赤ん坊を庇ったり隠したりすると家族や一族全員皆殺しにされたという。

 首輪を外そうとしたり、この国以外の人に助けを求めたり、主人から必要以上の言葉や行動したりすると問答無用で処刑(爆発)される。

 これは助けようとしたり話しかけたり、食事を与えたりと善意の気持ちで観光客や商人たちが行おうとしたとき、問答無用で処刑されるため、長らく生きらせるためにあえて手を出さないという暗黙のルールが存在していることも知った。

 この話を聞いていた弟は少女に同意したうえで、

「ひでぇー話だな!」

「ようやくわかったようだな」

「兄さん。この国の人たちを助けてやろうよ! 俺らならできるはずだよ」

 少女の話を信じて、兄に頼った。

 兄なら、事情も知っているはずだし、なによりも少女を守ったこともある。

 兄なら、きっとやってくれると思った。

「わかった。でも協力しろよ。さて、少女よ、今からみんなを開放する。開放したら、暴動を起こしなさい。」

「え…でも…」

 少女は首をさすりながら首輪がなくなったことを今でも信じられないようだった。

「大丈夫。問題となる首輪は俺達が解除しておく。後は魔法具を持ち込み、国を落としなさい。そうすれば、自由だ」

 ホテルにお金と一緒に少女を置いて、ホテルを出た。

 そして、古き魔法を使って、この国を自由にさせた。


 首輪を一斉に解除し、貧民と平民限定に興奮状態にする魔法をかけ、魔法具を山ほど国の倉庫から盗み、民たちに与え、あとは王族が降伏するまでほっとくという策で片付けた。


 この国がどうなったのかは、一カ月後の朝刊に載っていた。

『某国にて、テロが勃発。民の暴走か!? 王族は沈黙し、輸出は止まった。この先、この国の未来は――』

 続きを読もうとしたとき、兄に朝刊を取り上げられた。

「なに見てんだ…ふーん」

 と朝刊を魔法で燃やした。

「ちょっと! 続き、読ませてよ!」

「お子様には早い! 次の任務が来たぞ」

 結局、朝刊の続きを読むことができず、そのあとはどうなったのかはわからない。ただ、あの国は支配国は無くなったことだけは任務先の人から聞いた話だ。

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