黒いバラの上に止まった蝶が、トンボに食べられている。蝶は食べられながらバラを楽しむ少女とその傍らで虫捕りに夢中になる少年の姿を幻視する。少年の虫かごには自分を食べたばかりのトンボが入っている。……そんな感覚で楽しめた。波打つエメラルド色のビロードのごとき文章、断続的でいながら黒真珠のネックレスさながらに続くエピソード、そして突如千切れる結末。虚実の境目をかくも活写しきった物語は他にない。