『バンドウイルカ』の過去
私はあなたが好きだった。
いつかその思いをあなたに届けたいと、
心の底から願っていた。
『クルルッ!クルルッ!』
「よしよし、ほら」
私が頑張ると餌をくれた。
優しく、撫でてくれた。
だけど、ある日、"けんさ"で、私の身体に異常が見つかった。
動物のお医者さんは、私の病気は治せないって。
私は、好きな人と別れて遠い場所に行くことになった。
それが今の住み処。
しばらくして、私の別の飼育員さんが教えてくれた。
"サンドスター治療法"
私の病気を治す唯一の方法。
そこからの記憶は無い。
私がこの身体になってから、特に不調は無かった。
病は無事、完治できた。
だけど、この、かつて抱いた想いの完治は、出来なかった。
沢山の観客が集まりショーを見せる。
その中にあの人がいないかなと思って。
一生懸命探すけど。
あの人はもういない。
そして、もう私のショーを見せる人もいなくなってしまった。
私は生きている事への価値を見失いそうになった。
最愛の人の記憶も薄れ。
私の生甲斐も失われ。
私の目の前からすべてが消失する。
同僚のアシカは、そんな私の偶に吐く愚痴を聞いた。
だが、どうしようもなく。
逆に、気を使わせまくりで。
行き場のない思いを胸の内に秘めたまま。
静かな海を回遊する。
透明なコバルトブルーから、漆黒へと変わる海の色は
自らの人生を表してる様だった。
私、本当は、ご褒美なんていらないの。
私が欲しいのは...。
何なのだろう?
自分でもわからないや。
何かその、"求めていたもの"の答えが欲しい。
丁度良い所に、旅人が来た。
欲しいものが得られないかもしれない。
でも、構わない。
存在するかも分からない物の為に。
私は、私はあなた達に言う。
あの時の頃を思い出とか、私の欲しいものとか...。
色々絡み合って、分からなくなってきた。
このツタを取り払ってほしい。
色々な、理由の"為"に。
私は強請る。
ご褒美ちょうだい、と。
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