第3話
街外れには、ユダヤ人たちの隔離地区が広がっている。高い石壁で仕切られた居住区には曲がりくねった細道が無数に走り、その道を覆うように何層にも積み重ねられた石造りの建物が並んでいた。
ここに、ライラの生家があるのだ。
金などないと高利貸のユダヤ人たちを怒鳴りつける男を尻目に、ルイスは石畳の細道を歩んでいく。細い道に連なる建物の軒下には人々が集い、何やら楽しげに会話をしていた。
ルイスの横を無邪気に走り去っていく子供たちの姿もある。
彼らのどこが、神の子を売った悪しき民族なのだろう。その姿は生き生きとしていて、町で暮らすこの国の住民たちと何ら変わらない。それなのに犯人はそんな彼らを殺人犯にしたてようとした。
なぜそんなことを、犯人はしようとしたのだろうか。一番に疑いをかけられるのは、犯人の最愛のものかもしれないというのに。
静かな怒りを感じながら、ルイスは小さな建物の扉を叩く。それに応え中から出てきたのは、美しい妙齢の女だった。
まだ三十にもならないであろう彼女の容姿は、どこか亡くなったライラを彷彿とさせる。特に薄い紗のヴェールから覗く緩やかな曲線を描いた髪は、ライラのそれと瓜二つだ。
彼女はライラの母親だ。彼女はこの隔離地区で娼婦として働いている。
「修道士様が、異教徒の娼婦に何の御用ですか?」
ルイスを見るや否や、彼女は美しい顔を不機嫌そうにゆがめていた。顔に嵌った金の眼が不穏な色を帯びている。
「改宗なら壁の外でやって下さい。私は神に背くようなことは、何一つとしてやっておりませんから」
「改宗ではありません。娘さんのことでお話がありまして」
扉を閉めようとした彼女を、ルイスは呼び止める。ライラの母親は動きを止め、驚いた様子でルイスを見つめた。
「あの子がどうかしたんですか?」
「一昨日亡くなりました。何を思ったのか、彼女は自ら命を絶ったのですよ」
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