第5話:夢子とスキー1
1974年夏、奥秩父や南アルプスの日帰りできる山を1人で登った。そして1975年1月16日に列車で、新潟の胎内スキー場へ行く計画を立てて、夢子さんに電話をして出かけた。新潟に着くと駅まで、夢子がハイエースで、迎えに来てくれた。胎内スキー場まで、送ってくれる途中、レストランで軽食をとり、彼女の近況を聞いた。
彼女も同じ1951年生まれで23歳で両親が離婚し、叔母さんの家で育てられ新潟の零細米農家で貧しく、地元の商業高校を出て、昼間は、近くの食堂で、夜はスナックで働き、スキー、忘年会、新年会など忙しい時には、月岡温泉で芸者さんの手伝いをして、お酌したりして宴会のコンパニオンとして働いてるようだ。
彼女は、閉鎖的な田舎の生活に、飽きて、安田達夫が、月岡温泉に行った時も、宴会が、突然キャンセルされて、憂さ晴らしに飲んでる所に、安田が夕食を食べに来たので、からかい半分、ちょっかいを出したと知らされた。東京に出たいが、そのつてもなく、仕方ないので田舎町で細々と生活するしかないと話してくれた。
ハイエースは、働いてるスナック兼レストランで買い出しや、お客さんの送迎に使ってる車で、自由に使わせてもらっていると言った。生活が、苦しいというわけでもなく、贅沢もできずという感じで、若さをもてあましていると、愚痴っていた。冬は、暇なので、付き合ってくれないと、彼女が言い、月岡温泉の宿に着くのが遅くなるわよと言い、とにかく寒いから、温まろうと言うので、安田は、君に任せるよと笑った。
軽食を終えて、20分くらいでモーテルに入り、2人で風呂に入り、いちゃついて盛り上がったところで、ベッドインして、彼女のさみしさを埋めてあげた。よほど、優しさに飢えていたのか、長時間にわたり、逢瀬を楽しんで、疲れ果てた。その後、買いこんできた、おにぎりとパンとつまみを食べて、夜10時にチェックアウトした。
「今度、暇な時には、東京に来い」と、「安田が夢子に言った言葉に、涙を浮かべて、楽しみにしてるわ」と言い、彼女が暇なシーズンには、電話するねと言った。夢子さんが、「明日、良かったら、一緒にスキーしないか」と、安田が聞くと、「行くわと言い、喜んでくれた」。
「じゃー宿に朝10時に迎えに行くね」と、彼女の声が弾んでいた。宿に戻り、もう一度、温泉に入って熟睡した。翌朝、9時に朝食を食べて、フロントの脇で夢子さんを待った。10時に、明るい声で、おはよーと言い、一緒にハイエースに乗り込んだ。
胎内スキー場へ到着し、レンタルスキーを借り、ゲレンデへ、彼女が、「安田さんは、上級コースでも大丈夫」と聞くので、「腕前は中の上と言った所かな」と笑って答えた。じゃーリフトで頂上まで行って、最初は林間コースを滑って、スキー場の全体を見て、身体が慣れて来たら、チャンピオンコースも滑りましょうと言った。
安田が、「夢子さんは、スキーが上手そうだから、教えてくれよ」と言うと、「喜んで教えるけど、厳しいわよ、ついてこられる」と笑って言った。4本のリフトを乗り継いで頂上へ着き、準備運動、特に快感の屈伸と手、足、膝、足首の屈伸を入念にしてから、スキーを履いた。
続いて、「林間コースを行くので、ついてきて」と言うので、安田は夢子の後をパラレルでついていった。「転ばないのを見て、大丈夫そうねと言い」、「今度は、彼女が長めに滑って、下で待ってるから、上から滑ってみて」と言われたので、言うとおりにした。数百メートル先で、彼女がストックを上げて、スタートの合図をしてくれたので、パラレルで滑ってみた。最初なので、多少、後傾が気になったが倒れることなく、彼女の所まで滑った。
彼女が「悪くないわね」と言い、悪い点はどこか、わかると質問するので、「滑り始めて、後傾である事、左回りは良いが、右回りがぎこちない」と言うと、「わかってんじゃない」と笑った。「後傾は、傾斜に常に直角に立つ事を心がけること、緩斜面で直滑降をして感じを掴めばわかる」。「ターンがスムーズにいかないのは、プルークボーゲン(足をハの字して、左右に体重をかけて曲がる技術)を練習して、膝の屈伸をして、完全に体重を移動すること練習すれば良くなる」と言われた。
「この2つをこの先で、練習していきましょう」と言ってくれた。そこで、「膝の曲げ伸ばしを多少オーバーに行い、次にプルークボーゲンで回転したい方向の足に体重を完全にのせることを心がけて、滑った」。「そうそう、上手、都会の人にしては十分、上手と誉めてくれた」。そうして、何回も練習しながら、ゆっくりとゲレンデを一番下まで下りてきた。
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