因果応報の罠
「馬鹿馬鹿しい……」三音子が苦虫を噛んだような顔で言った。「呪い? 鬼の血統だって? そんな与太話、誰が信じるかね……『親の因果が子に報い』って、見世物小屋の口上じゃあるまいし」
「そうかな?」マフラーで顔を隠した
「そりゃ、何にでも因果は
「ずいぶんと威勢が良いな。御内儀。何ぞ、先祖に恨みでもあるのか?」
「会ってもいない親の親のそのまた親に、恨みなんぞ有るものか……旦那、私が恨んでンのはね、血筋やら前世の因果を持ち出して、生まれた
三音子は、キッと男を
男は、その強い眼差しを受け流して「ふふ」と力なく笑う。
「キッパリした人なのだな、御内儀は……私は駄目だ」
そこで目を伏せ
「物心ついてからこの方、ずっとウジウジ悩んでばかりだ。いったい何の因果で私はこんな姿で生まれ、こんな甲斐の無い人生を過ごしているのか? 森の奥の屋敷に
伏せていた目を上げて、男は女を見返して言った。
「さっきの鬼の話だが……言った当の私でさえ心の奥底では、九割がた、荒唐無稽な
そこで、
「何だい」三音子は男から視線をずらして目を伏せた。「他人の顔をそんなに見つめるもんじゃないよ」
「ダンサーあがりと言っていたな……どこかで見たと思っていたが、もしや、
「ご名答。でも何にも出ないよ。板の上で飛んだり跳ねたりしてたのは、もう十年以上も昔の話だ。今じゃ、ご覧の通り、体のあちらこちらにお肉の付いた、左腕が効かない年増の
「おお、何という偶然だ。公演中暴漢に襲われ大
「
* * *
その時、ボイラーの横で力なく寝そべっていた大
「おお、
そこで三音子は、ボイラー室の温度が
男の言う通り、あの大
鎌首をもたげた
光は、やがて
そのシムボルを見て、三音子がハッと息を飲む。
「
大
なるほど、白い着物姿の美しい女を空間に投影しているのは、この大
とすると、文様は大
(この女、やっぱり
白い女、すなわち大
隣に座って見つめ合うマフラーの男と幻の女。その姿は、どこから見ても仲睦まじい恋人か新婚夫婦そのものだ。
その様子を見ていた屋敷の
「さあっ、旦那、そろそろ本題に入って欲しいねっ」
あらためてヴァルターの銃口を二人に向け、しっかり狙いをつける。
「
「そうだな……分かった」
マフラーの男は、何か面白いことを思いついた少年のように目を細めて「ここは一つ趣向を凝らして、物語風に話してみようか……人物その他いくつか固有の名前を出すが、全て仮のものと承知してくれ」と言った。
「さて、
「滅多に人の行かない森の奥深くに、誰も知らない立派な館が建っていた。
雪夜(天空探偵集1) 青葉台旭 @aobadai_akira
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