第6話 習わし
「ちっ!! やはり侵入者がいたようだな!! 絶対に逃がすなよ!! 追え!! 追えー!!」
俺の足音に気付いた
「い、いません……!! どこかへ消えてしまいました!」
和田の部下たちが俺を追ってベランダに飛び出してきたが、俺は既に杉の木をつたって一階に降りていた。
「馬鹿が! そんなわけないだろ! ちゃんと探せ!」
少し遅れて和田がベランダに出てきた。
やつらがベランダを調べているうちに、俺は施設の出口へと向かう。
「わ、和田さん……! あそこにいます!」
俺の姿はベランダから丸見えだったためすぐに見つかってしまった。
少しでもやつらとの距離をとろうと、俺はわき目を振らずにひた走る。
そのまま施設を出た俺は、あの夜伊舞と走り抜けた道を一人で懸命に走った。
どうにか追いつかれずに道路沿いまで逃げた俺は再び大きな岩の陰に身を潜める。
……ブーン…!ブンブブーン……!
その数十秒後、やつらの車が道路沿いに出て町の方に向かっていった。
俺は安堵のため息をついてその場にしゃがみこむ。
すると途端に、伊舞の顔が目に浮かんで胸が締め付けられた。
「明日、俺が必ず助け出してやるからな……」
*
この日の夜、俺は
「お前、最近どうしちゃったのよー? 何か人が変わっちゃったっていうか」
「そうか……? 自分では分からないものだな……」
俺たちは二人でテレビゲームを楽しんでから床に入った。
「今晩はホントに助かった。必ず借りは返すから」
「いいっていいって! それより、ちょっと面白い話を聞いたんだが――」
田島が嬉々として話し始める。
「町外れにでっかい山があるだろ? あそこは昔から捧げ山という異名で知られてて、満月の夜に荒れ狂う山神を鎮めるために、子供を生贄として捧げてきたんだってさ。その習わしは、実は今でも続いていて、これが神隠しの実態だとも言われているんだとか。……な、面白いだろ?」
あの山にそんないわれがあったのか。そりゃ変な集団がいつくわけだ。
「へ、へぇー……! 知らなかった。何か凄い話だな」
「だろ? でも驚くのはまだ早いんだなーこれが!」
田島がしたり顔で話を続ける。
「今のご時勢で、一帯の集落には爺さんと婆さんしかいなくなっちゃってさ、子供もいなければ体力のあるやつもいないわけで、その習わしを守っていくことが出来なくなってしまったんだと。だから、ここ十年はどこかの団体が代理で習わしを執行しているらしい」
……それって、カクリヨ会のことなんじゃ……。
俺は固唾を呑のんで、田島のオカルトじみた話を聞いていた。
「んでオチを言うと、その習わしっていうのは満月の夜に必ず行われるもので、明日の夜もあの山のどこかで執行されるんじゃないかって話。まぁ結局は都市伝説の類なんだけど、この話を聞かせてくれたのが割と偉い人だったから、案外本当かもしれないなって」
……間違いない、明日の件とドンピシャだ。
もしこれが本当なら、伊舞は生贄にされてしまうのだろうか……。
「なんか話したら満足して眠くなってなってきたわ。もう寝ようぜ」
「そ、そうだな……」
*
次の日、俺は日没過ぎに例の施設へ向かった。白々と輝く満月が浮かんでいる。
田島の話によると、なんでも、満月が真上に来るタイミングで生贄を捧げるのが決まりなんだとか。
場所の目印になっていた大きな岩が見えてきた。しかし道の入口には警備役らしき男が立っている。
予想外のことに戸惑った俺は一度岩陰に身を置いた。
どうにかして突破しないと……。
俺はしばらく男の様子を見た。
その間、車が何台か入っていったが男が念入りに一人一人の身元をチェックをしていた。
このままここで機会を伺っていたら間に合わなくなる……。
そう察した俺は関係者を装って男を欺く作戦にでた。
「あのぉ……、すみません」
「なんだお前は?! こんな山の中で何をしている!」
こいつもカクリヨ会のやつなのだろうか。揃いも揃って血の気が多い奴ばかりだ。
「僕、今夜の式の関係者なんですが……、ここ通して貰っても良いですか?」
「ん? お前みたいな若いやつは珍しいな。招待状を見せろ」
どうやら招待状がないと入れてくれないみたいだ。
俺はここでもう一芝居打つ。
「あははは! いやだなぁ! 僕は局の関係者ですよ! 招待状なんてあるわけないじゃないですか!」
「な…! そ、それは失礼しました……! 不敬な発言お許し下さい……!」
局がなんなのか分かっていなかったが、和田から盗み聞きした話を最大限に活用した。
「それじゃ、ここは任せましたよ。きょうは楽しませてもらいます」
俺はそう言って施設へ続く道へと入っていった。一先ずこれで第一関門は突破だ。
「……ちょっと。あなた本当に局の方ですか?」
後ろからさっきの男が追いかけてくる。やはりそんなに甘くはなかったか。
「も、もちろんですよ。何か気になることでも?」
「局の方には局員証を提示して頂くことになっているんでした。お手数ですがお見せ願います」
くそ……、ここまでか。こうなったら……。
俺はカバンの中身を漁るふりをしてしゃがみ、足元に転がっていた先の尖った大きめの石を拾う。
「お待たせしました! こちらです!」
男は俺から渡された学生証の中身を確認をしている。
その背後にまわった俺は手に持った石を男の後頭部に思いっきり打ちつけた。
「うぐっ……」
当たり所が悪かったのか、男は一撃で気絶した。
俺は男の身体を人目につかない場所に移動させ、急いで施設へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます