第6話 三十路は決断が多いよね

善と悪は横並びに机を挟んで

わたしとクロの前に正座をしてきちんと座った。


「みかんちゃん、

僕らに力を貸して欲しいんだ。

その代わり、君を魔法少女にしてあげるよ。

うんと可愛くて素敵な憧れの魔法少女に。

だめかな...?」


は?

いやいや、あの、急にお願いされても...

「あの、わたしへのお願いごとってなんですか?

そもそもお願いごとの条件を聞かないと受けれないんですけど。」

「あ、そうだよね。

でもみかんちゃん、魔法使いになりたいんだよね?

心の中でずっとそう思ってたでしょ?」

そう言って、善は呪文を唱えてわたしを指さした途端...


ボンッと、よくある魔法使いの音がして

私は魔法少女に変身していた...


「あの、、、話聞いてます?...」


クロはびっくりした後、

笑いを堪えて肩が震えている。


部屋に全くつりあわない

ピンクの髪の毛にピンクのフリッフリの

ミニスカワンピを履いた

三十路のわたし。


「あの、、、」

「いやぁ~、やっぱりかわいいじゃ~ん!

ほら、やる気出た?出た?

衣装はた~くさん用意してあげるっ!

僕、君のこと30年間も見てきたんだから

どんなのが似合うのかもかわいいのかも

全部わかるよ~!

我が子みたいなもんだも~ん!」

と、善はわたしのまわりを犬のようにくるくる回っている。


「っふざけんなや!願い事なんやねん!

言ってみろやっっ!」

わたしはイラッとしてバンッと星のステッキを地面に投げつけた。


善は構わず喋り続けた。

「神様からのお願いごとを聞いて、叶えるんだ。

神様は忙しくておっちょこちょいな神様が多いらしいんだ。落し物をしてしまったり、シナリオをシナリオ通りに動かさないといけないのに、動かし忘れてしまったりするんだ。

そこで、神様に代わってこの業務をこなす必要があるんだ。

ただ、僕らは人間には直接手を下せないために、協力者を人選する。

選ばれた人間は「セレクトトリガー」と呼ばれる。

選んだセレクトトリガーに自分たちの存在を認めてもらって協力者として業務をこなしてもらう。

その代わり、僕らは自ら選んだ人間には魔法や魔術を禁忌以外のことは協力することが出来る。

セレクトトリガーが僕らの存在を認めれば、課題を集めるカードが渡され、課題がクリアされればスタンプが押されるんだ。

スタンプがいっぱいになれば、僕らは歴史上にこのまま残ることができるんだ。」


「へぇ。じゃあ認めなかったらどうなるの?

わたしがやらないって言ったら?

そんなこと考えたなかったの?」

わたしは無機質な声で言った。


「僕らは認められなかったら地獄に落とされて存在を消される。

僕らは神様と存在を歴史上に残す代わりに、この代行をこなす契約をした。

人選は母胎の時から始まる。

たまたま君が生まれる寸前に僕らにこの契約の時期が回ってきたんだ。

その時に選ばれたのが君。

僕らは選べるって言われてたけど実は契約の時期に与えられた人間にしか協力をお願いすることはできなかった。

猶予は生まれてから30年間の間に、セレクトトリガーとしての話をし、僕らの存在を認めてもらわなければならない。」


「でも、わたしもう31歳で今年32歳なんですけど?でも地獄に行ってなさそうやけど?」

わたしは善と悪を睨んだ。


「そうなんだ。通常はみんな生まれて10年ぐらいで気づいて業務をこなすんだけど...君は例外中の例外。僕らが話しかけても無視してたでしょ?そのくせ自分が困った時は話しかけてきたよね?中途半端だったんだよ。神様もお情けをかけてくれたみたい。君、ほんと頑固だったからね~」

善はちょっとクスッと笑って嫌味を言ってきた。


僕らが暖かくなる前に認めて欲しい、と急いでいたのは、彼女は4月生まれだからだ。

春になれば歳をとる。

情けもいつまでかけてもらえるか、なんて分からないからだ。



「頑固って!だってそんな厨二病じみたことあるわけないし、認めてしまったら私頭おかしい人になってしまうやん!!

で...でも困った時に相談したら助けてくれることは有難かったし、ただ、、それはわたしの脳内の勝手な人格なんやって思ってた...て、、テレビで脳内の勝手な人格が住んでるって人見たもん!」


あるテレビ番組で見たことがある。

自分はいくつかの人格が脳内に住んでいて時と場合によって彼らと話をする、ということを言っていたタレントがいた。

それを聞いて安心したのだ。

あ、私もその類やって。


「でも、その人も同じセレクトトリガーかもしれないよ?もしかしたら。僕らみたいなやつらは少ないけどいるらしいからね。今のところお会いしたことはないけどね~。

あ、安心して。君の生活には支障ない業務ばかりらしいから!僕らもできる限りは頑張るし!

ほら、本物の魔法使いになれるんだよ?

あ、少なくとも某アニメの魔法少女になったら死んじゃう~なんてことないから安心して。僕らはセレクトトリガーを死なせても、消滅だからね。セレクトトリガーの命を守って業務を遂行することが僕らの使命だから!」

そして、大事そうに付け加えた。

「僕らは君を信じてる。」


じつは一瞬頭に

あの、魔法少女として契約したら

死んでしまうアニメを思い出した。

でも、違うよね。

30年間連れ添ってきた彼らは嘘はついてなさそうだし、何より結構色々助けてくれたことがある。

人生の決断にはいつも彼らが付き添ってくれていた。

そう、わたしは無視をキメッキメに続けていたが、彼らはわたしの問いには

いつも答えて支えてくれていたことを思い出した。

そんな人生、他では味わえないし、

歴史上の人物、ファウストと一緒に生きてきたなんて誇らしいじゃないか!


「わかった。あなたたちを認めよう。

その代わり、わたしをめちゃくちゃかわいい魔法少女にしてくれる?

とびっきりにかわいい衣装を沢山用意してね。」

淡々と言ったけど、ちょっと笑ってたかもしれない。

ちょっと涙ぐんでたかもしれない。


クロは驚きつつどうしていいか分からず、

ぽかんとしていたが、言葉を放った。

「いや、意味わからんけど、

ほんま意味わからんけど、おもろそうやん。

ほんで、その衣装ええやん(笑)

まぁできることあったらおもろそうやし言って!

いや~人生分からんもんやなぁ!

主婦が魔法少女やで!あははははは」

腹を抱えて笑いながら続けた。

「魔法少女って言うか、三十路主婦やん。

魔法少女と書いて(三十路主婦)やんっ!

わろてまう~」

もう、ずっと笑ってる。

失礼やわ~。


「そうじゃな。お前、やたらグミやらお菓子をちょこまかと食べてたよな。お菓子をいつもおいしそうに食べとるじゃろ。

魔法少女ヤミーとかどうじゃ?ほら、なんか魔法少女っぽいじゃろ?」

悪がニヤニヤと笑って馬鹿にしていた。


「誰がヤミーやねん。闇から出てきたヤツみたいやん!なんか食べ物に卑しいやつみたいやし!!」

腹立つわ~。

誰が菓子ボリボリ食ってるや。

やかましいわ!

まぁ、間違えてないけど...


クロも善も悪も

ゲラゲラと笑ってる。


まぁ、いっか!


「魔法少女(三十路主婦)ヤミーいきまーす✩.*˚」


星のステッキを拾い上げ、

宙に振り回しながら魔法少女っぽくふるまってみせた。


時計は午前1時。

そろそろお風呂に入って今日の疲れを落としたいところです...





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あの、魔法少女(三十路主婦)ヤミーはいかがですか? 卯月おもち @yaiyuyommo

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