第5話小声


「平等性を・・・図るために・・・まずは証言をしていただきたいと思います、と、ですからお願いします」通訳の小さな声が終わると同時に、僕の名前がたどたどしく呼ばれた。そのあとさっき話した日本人男性が

「とにかく、事件の当日のことを話してくれないか、終わってからこちらの質問に答えてもらうということでいいかな?」

「ハイ」僕が答えた後、彼は流暢な英語で説明し

それが終わって、僕は話し始めた。





 その日の三十分に僕はすべてをかけていた。写真からわかったことは、ある大陸の一部分、二回目の三十分散歩では国境の付近であること。何故なら、少し顔つきと体つきが生まれながらに違うと思える二つの人種の人たちがいたからだ。そうなると皮肉なことに国境で紛争の起こっているところは除外し、候補地は四つに絞られた。


「最後は市場、だろうな。でも市場に行くのなら直行しなければいけない、ぎりぎりだ。上手く作ってあるなあ、最終問題は。しかも市場も入り口までだもんな。それでもしょうがない、日用品は消し方がすごい、模様まで消してあるもんな。民族衣装の柄がそのままシャツになっているのを見つけられて良かった。あともう一息だ」

時差のこと、自分の体調、会社の休み、このことのために総てを整えて挑んだ。

「子供たちがまたやってきたら・・・どうしよう」明るい笑顔が可愛かったが、今度は勘弁してもらいたいと思った。



 パソコンの前でこんなに緊張することなどないのかもしれない、しかしこれは歓喜のためだと自分に言い聞かせ、世界中のこの問題の挑戦者たちが立つスタート地点でカメラがつくのを待った。


「映った!」


左手に黄色い看板、右手には青、まったく同じだった。そしてすぐに動いてもらうことにした。だが、動き始めると、カメラがまっすぐ進んでいるというより、ちらちらと左右を見ながら歩いているようだった。

「この人間下手だなあ、それともカメラが旧式なのか? 最終問題だぞ、いいカメラ持たせろよ」

と自分がぶつぶつ言っている間も、そのカメラの揺れは治まらず、むしろひどくなる一方だった。

「何を! 」

と怒鳴ってみたが、と何となく、町が変わったように感じた。町の人が全部このカメラを見ているような気がする、しかもまんじりと、以前寄ってきていた子供たちまで、立ったままこちらを見ている。中には子供を家の中にいれようとしている母親らしき人もいた。


「どういうこと? 」


 こちらを見ている目は好意などみじんも感じられなかった。このお前は子供がやってきていたが、実はその後ろで大人の笑っている姿が見え隠れしていた。何人か子供に注意をしようという人もいたのだ。だが今日はまるでその逆だった。


「何だ? この町、何かあったのか? 」


カメラの主に経路も何も伝えないままにしていると、彼は急に立ち止まった。これから先まっすぐにはいけないのだ。

自分は慌てて市場の方向に行くようにという指示を出したが、この彼なのか彼女なのかわからない人物はそこから動こうとはしなかった。すると急にカメラにどんどん近づいてくる顔があって、その顔が明らかに怒りながらこちらに近づいている。表情はどんどん険しくなって、明らかに大きな声をあげてのドアップだ。カメラは大きく揺れて、急に走り出した。それは市場とは反対方向だった。

でもそうなると僕は


「逆! 逆! 」


と何度も何度も指示を出していた。やっと止まった所には誰もいなかった。


そこにはぼこぼこになった金属のボールが見え、家はコンクリートと木でできたものとがまちまちだった。もう一度僕は冷静に指示を出した。


「あと少しかない、時間が終わってしまう。市場の野菜や果物、魚、動物、とにかくそれしか特定できるものがない、この前ちらっと見えた。それらは消されてはいないはずだ。だってこれまで消したら本当に何の手掛かりもない、急いで! 」


時間に追われ、さっきのことなど忘れてカメラを急がせた。そして市場の手前、その角曲がればというところまで来た。


「何をしているんだ! あと曲がって十メートルは進めるだろう? 」

また止まってしまった。あと十分もない


「早く! 早く! 」

指示が判らないはずなどない、この指示に従わなければ、お金はもらえないはずなのだ。やっと、ゆっくり動き始めた。


「見えた! 」市場の台にある果物が目に入った。

「これはえーっと、やっぱりこの果物だ! 産地が絞れる! 」

僕はそこに止まってくれるように指示を出し、必死に他の物を探した。

「魚だ! ああ!ちょっと見えないな、右に動いてもらうとわかりそうだ」

と指示を出した途端、ずかずかと人がやってきて、あっという間にカメラが上に上がって、人ではなく屋根が映った。


「何? 」


するとすぐにまた戻り、また怒った顔、今度は体の大きな女性が、こちらに殴りかかっているようだ。


「何なんだ! 」


それを避けたかと思うと、ぼんやりとした薄茶色のものが映って


「消えた・・・画面が真っ暗だ・・・・・」


何が起こったのか、わからないはずはないだろう、と自分に問いただした。




 何分経ったのかはわからない。とにかくゲーム会社に連絡したが、今調査中です、というばかりで一時間たっても二時間たっても返事がこない。いろいろな方法で連絡しすぎたのか最後はすべてで「混線中です」という文字が出てきたり、言われたりした。どうしようもなかった、仕方なく警察に電話したが


「ゲームの事でしょう? しかも海外ですか? 」

「でも殺されたかもしれないんです、棒のようなものも見えたんです! そのあと額のカメラが壊れた。ゲーム会社に連絡しても音信不通なんです! 国は何とかわかります、でもこの国に大使館のない国で、連絡のしようがないんです! 」

「まあ・・・そう言われましても・・・」

「お願いします、人が死んでるかもしれないんです! 」


それからさらに何時間か経って、玄関のチャイムが鳴り、覗くと数人の日本人、警察の制服を着ていない人が立っていた。

「先ほどの件で参りました、お話を詳しく聞かせてください。パソコンも見せていただきたいんです。今までのあのゲームの履歴なども」


それが十日前の出来事だった。

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