第4話見たことのある模様

 

 その日の朝がやってきた。自分は朝食を終え、しばらくしてからボディーガードと一緒に国連本部へ向かった。いったいどこで見た写真だったのだろう。社会の教科書なのか覚えていないが、高さのきれいにそろった各国の旗が、高いビルの前ではためいていた。平等の旗のもとに、旗の平等性、どちらにしても自分はこれからそれに対して「ノー」と言いに行かなければならなかった。そのことがやはり悲しいのか、気が付いたら旗を見ながら足が止まってしまっていた。しばらくそうしている自分を、ボディーガードは待っていてくれているようだった。  


今日も彼との会話はほとんど身振り手振りで済んだが、自分にとっては本当に典型的な「良いアメリカ人」だった。明るくて気さくでよく笑う。だが彼は自分が何故国連に行かなければならないかということを一切聞かなかった。その点については全く話してはいない。厳重に禁止されていたのだろう。自分も全くの観光なら良いが、人と会って話をするのは止めてくれと言われた。それは自分のこれから話すことが

「全くゆがめられていない真実」でなければならなかったからだ。それは自分も承知していた。

そうやって立ち止まっていると、昨日の男性が現れて、国連ビルの中に自分を招き入れた。

 

 入ってすぐに、色々な国の言葉を耳にした。英語、フランス語、スペイン語、そんな言葉の中を歩き、遠くで日本女性が立っているのが見えた。断言するのはおかしいかもしれないが、そうとしか考えられなかった。


「すいません、他の仕事で昨日行けなくて」久々の日本語だった。

「いえ、大丈夫です。二人がとてもやさしかったので」というと彼女はそれをすぐさま訳してくれて、十数秒後にはボディーガードの大きな手がバンバンと楽し気に自分の肩を叩いた。そのあと彼とは別れ、さらにビルの奥には入っていった。


 自分は会う人会う人、成田で一緒になった男性からこの通訳の女性まで、すべてに同じことを聞いた。しかしみんな「それは知らされていないので」と言われて終わってしまっていた。

「そのことを私が聞いてくることは可能かもしれませんが、でももしかしたらそれも・・」と彼女は最後に付け加えた。


「わかりました・・・」そう答えるしかなく、委員会の開催される部屋に入った。


 教室くらいの大きさだろうか。テーブルとイス、テーブルの上のプレートには国名が書かれているものもあれば、会社名、そう、あのゲーム会社の名前もあった。自分の名もあった、そしてJAPANと入っている。部屋にもう一人日本人の男性らしき人もいた。誰かと話しているのに夢中の様だったが、自分を確認するとすぐさまやってきて

「やあ、遠い所をありがとう。実は先に君に証言してもらうのが良いのじゃないかということになってね、大丈夫だろうか? 」急いでいるようだったので

「もちろん構いません、そちら方が僕としては楽です」と答えた。

「そうか、良かった、どうも有難う。じゃあ、君も頼むね」と通訳の女性にも声をかけて、彼は早々に元居た場所に戻った。僕は自分の席に座り、周りを見渡した。民族衣装の人も何人かいる、そして少し離れた所に一人目をつむったまま考え込んでいる男性が見えた。着ているシャツは独特の模様で、いかにも人が描いたものを染めたゆえの力強さがあった。どこかで見たことがある、と思った瞬間、彼があの町のあの国の代表であり、自分の疑問に一番に答えてくれる人であろうことが分かった。じっとその人から目が離せなかった。見れば見るほどその模様は彼の肌に、その背格好にぴったりと合ったもので、長い歴史の中で残ってきた伝統の凄さを感じさせられた。


 ゲームの攻略のため、模様でそこの地域を判断する方法というブログを読んだことがあった。その時もゲームのためだと思いながらも、その奥深さが面白いと思えた。

そうやっていると彼はパッと目を開けて自分の方を見た。自分は小さくお辞儀をしたが、そのあとドアがバタリと開いて一人の人間がやってきて、もうそこしか空いていない席に座った。ゲーム会社の席だった。

そして英語で誰かが話し始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る