第9話 舘谷葵は毎日が楽しい

一度家に帰ると書き置きが残されていた。


『出張でしばらく帰れない』


父親に似て整わない字は兄のだろう。そしてその横。


『前言ったと思うけど職場の人と旅行に行ってきます。3日後に帰ります』


つまり、3日間は立派なホーム・アローン。


「はっ」


思わず嘲りじみた声を出した。その気分は買い物のスーパーでも受け継がれていた。


葵のリクエスト通りフルーツサンドとポテトサラダをカゴに入れ、俺のメシとホイコーローの材料を探してスーパーを彷徨う。


「あれ買うー」


「買いません」


なんてやりとりをスピードラーニングしていると嫌でも頭に入ってくる。




ときどき、葵を本当に尊敬することがある。


彼女も俺と同じ身ではあるけれど、彼は世界の全てを笑って楽しんでいる。


そんな簡単なことが一番難しい。そんな人もいる。


楽天家と言ってしまえばそれまでなのだが、それは簡単なことだろうか。





そんなわけだし、似たもの同士として、



「来たぞー」



愛すべき友人として、



「やっと来た。おそいー」



やっていこうじゃないか。



「なあ、葵」


「んー?」


「毎日楽しいか?」



完璧な笑みを浮かべて、葵は言い切る。



「うん。すごく!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る