第8話 舘谷葵はまだ来ない

謹慎明けは確かにテストだった。しかし、学校に葵の姿は見えなかった。1日くらい謹慎を勘違いしてるんじゃないだろうな。



一瞬気を散らして、目の前の英語のテストに目を戻す。残り時間は10分。


カッカッカッというシャーペンの音があちこちから聞こえてくる。


英作文だった。



Write your argument on the genderless or LGBT issue in about 60 words.


LGBTかジェンダーレス問題についての意見文を60語程度で書きなさい。



よりによって、か。人の運命を掻き乱す神様に感謝を述べなければならないようだ。



俺は奇妙な幼馴染を思い出しながら勢いよくペンを走らせた。



※※※※※※※※



テストが終わると、葵からメッセージが来ていた。


『風邪引いた。くそわろ』


笑うのか。葵が笑っているうちは世界は平和だ。


お大事に…と返信を打ちかけて手を止める。言葉を変える。カコカコカコカコ。


『なんか買って持ってってやろうか』


『マジ?』


『ホイコーロー食いたい』


『あとフルーツサンドとポテサラ』


食の趣味も倍近い葵だ。俺は思わず天を仰いだ。


『自分の分の金は出せ』


『俺もそっちで食う』


空腹と奇妙な友人は最高のスパイス。

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