第10話 舘谷葵は悪くない

葵は元気そうではあったけど、実は微熱があると笑っている。人を家に招くのにマスクもしていない。


1階のリビングのテレビがついていて、映画を上映していた。どうやらSFモノらしい。


「ほら、メシ」


「さんっきゅー」


「ホイコーロー作ろうか?」


「いや、私も作るよ」


「病人は大人しくしてろ」


葵を追い返して俺はひとりキッチンに立つ。映画に飽きたのか、テレビのチャンネルをザッピングしているのが音でわかる。


料理は作業感があって好きでも嫌いでもない。葵と会話を交わしながら着々とこなす。



「葵、お前熱は?」


「さんじゅうななどごぶー」


「普通に風邪じゃん」


「だからそうなんだよ」


「他の症状は?」


「ルーお医者さんみたい」


「うるせえよ」


「鼻水」


「一応マスクしてくれよ」


「なんで?」


「いや、うつされたくない」


話題を変えて俺がしばらく家で一人だと話すと、葵はこう提案した。


「あ、だったらその間ウチに泊まってきなよ」


「は?」


「その間ここで過ごせばいいじゃん。僕は介抱してもらえる。ルーは寂しくない」


「寂しいなんて俺は一言も」


「嘘つけ。顔に書いてある」


俺は黙った。言い返しても無駄な気がしたのだ。


「…わかった、そうするよ」


「やりぃ。あ、明日の晩飯はチンジャオロースがいい」


「だったら風邪早く治して手伝え」


働かざる者食うべからず、だ。


「わかったよ。治す。チンジャオロースには勝てないや」


ドサッという音がしたあと、葵の意外と可愛らしい寝息が聞こえてきた。


「…」


なんだか、安心した。

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