第4話 舘谷葵はご機嫌斜め
放課後、葵が俺を見つけて面白そうに言う。
「なあ、ルー」
「ん?」
「ねーヤバい。職員室に呼び出し食らった」
「はぁ?」
前半のヤバいはギャルの口調だった。
「怖いからついてきて」
首肯すると、葵は俺の手を引いて階段を上っていく。
今日は男子の制服を着ていた葵。女子の制服だったら青春ドラマの一幕になれたかもしれ
ない。少し惜しかった。
「いってきまーす」
俺を廊下に残して職員室に入って行った。
だが、疑問だ。
葵は成績は悪くない。素行不良でもない。当然、先生にも可愛がられる。俺は職員室の扉を少しだけ開けて覗き込んだ。
「だからお前は何度言ったら分かるんだ!」
葵に怒鳴りつけている奴の顔を見て、俺は舌打ちした。生徒指導の戸村のジジイだ。
今年赴任してきた彼は悪く言えば老害タイプ。古い考えに執拗に固執する大人だ。どうやら両性的…中性的な葵の立場が癪に触るらしい。
「男でも女でもないなんてふざけた真似を」
戸村に怒鳴られている葵は俺に背を向けているので、その表情は伺えない。でもどうやら、葵は全部の小言を右から左に流して平然としているようだった。髪をくるくる弄っている。
さすが。大人だ。
「この学校に通っている以上、男女どちらかの立場をとって…!」
ドゴッ!
「ふぐっ…!」
「…あ」
戸村が倒れ込んだ。
葵が拳骨で戸村の顔面を殴りつけたのだ。
さっきまで戸村の剣幕に押されてサイレントを決め込んでいた他の職員が慌てて葵と被害者教師に駆け寄る。
「お…お前、暴力だ!教師に向かって暴力を!」
喚く戸村に、葵はさらに乱暴な言葉を浴びせた。
あーあ、ガチギレしちゃって。大人げない。
葵の極端な両性っぷりを忘れていた。冷静なところを見せたと思ったら、ガキ大将のようにキレる。まあ、戸村に派手な拳骨浴びせて俺もスッキリしなかったと言えば嘘だ。
俺は頭の中の喝采を落ち着かせるように頭を抱えた。
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