第5話 舘谷葵は家に呼びたい

葵は教師を殴った罪で1週間の自宅謹慎を言い渡された。学校側からしてみても公にしたくないのだろう。性的少数者をバカにした教師がいるなんて。



「あ、羽田」


「なんすか」


事件から3日後の放課後、担任教師に呼び止められた。

葵の家にプリントを届けに行けというのだ。


「羽田、舘谷と一番仲いいだろ。頼んだぞ」


適当な担任だ。引き受けたが、俺は葵の家を知らなかった。


電話をかけてみる。どうだ。1週間の休暇は。


『悪くないけど、退屈だね』


なんて笑っていた。俺が本題を伝えると、葵はまた笑う。


『なーんだ、そんなことか。ね、そのプリント要らないって言ったら矢島おこかな?』


矢島というのは担任の名前だ。


「いや、なんか大事なもんっぽい。キレるな」


『じゃー届けに来てくれよ。場所は…』



ここ10年が嘘のように、いとも簡単に葵は自宅を教えてくれた。



「いいのか?」


『なにが?』


「俺が行っても」


葵はまた笑った。


『ダメだと思う?』


「いや、今まで家教えてくれなかったし」


『教える用がなかったからね…ねえ早く、私の部屋に来てぇ』


妖艶な声を出す。声優になれるレベルの女子の美声だ。


ふざけて誘惑されているのだろうが、相手が葵だと困る。返事に詰まっているとまた笑われた。



『期待すんな、この童貞』


ブチ殺すぞ。

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