生け贄一人目

俺はいつも通りの電車に乗り、学校まであまり浮かない顔で歩いている。


通っている高校は、自称進学校でありながら、大した実績もなく窓からの景色を売りにした方がいいようなそんな学校である。授業はみんな静かに受けているように見られるが、寝ているもの、ゲームしているものが多い。


そんな、いいような悪いような大変微妙な学校へ朝から向かう俺は、憂鬱な気分以外何物でもない。


そんな俺であるから、少しは空を見上げることもある。


と。


視力がいいのは、少ない取り柄であるから空になにか違和感があれば気づく。いや、あれは、俺でなくても絶対わかる。



朝であるから、薄い月がかすかに見え、今日は晴れているから、太陽も朝から眩しい。

しかし、


見慣れない丸いものがういている。



あれは、太陽とか、月とかと同じ星ではないだろうか。


いやいやいや。


新しい星ができたなんて聞いてないぞ(出来たとしたら大ニュースである。)

では、一体あれはなんなのだろうか、

太陽ほど明るくなく、月ほど目立たなくはない。ただ、不気味なひかり方をしているのだ。


しかし。

俺が1番恐怖を覚えているのは。


自分が冷静すぎるということ。



こんな、俺が1番忌避するだろう、非日常要素を見て動揺しないはずがない。もはや、視認することすらしたくない。


そうであるはずなのに。

至って俺は、冷静であった。

まるでそれをしってるかのようで。

どこか懐かしいようで。

何か大事なものを忘れているようで。



不覚にも、黄昏るようにして空をしばらく見つめてしまっていた。



***


「おはよう」

堅苦しい先生に、挨拶をされて我に返る。

もう一度、見慣れたアスファルトをみつめ、再び空を見る。


やっぱりある。


疲れているだけであって欲しかった。

俺は至って冷静ではあるが、だからといって驚いていない訳では無い。

本当にあれはなんなのか。

目の前を足早に過ぎ去ってゆく堅苦しい先生に聞いてみる訳にもいかない。


学校には、いつもより遅く着いた。(人知れずぼっーとしていたのだから仕方ない。)


「あのキャラかしてー」

「いいなぁ、俺も欲しい」

「そのコスメいいよね!」

「1時間目、古典かぁ」

「課題終わってないー」

等々、みんなが思い思いのことを言っている教室の隅に座る。

我ながらくじ引きではあたりの席だと思う窓際の一番後ろ。

今日は、あの空に浮かぶものを観察する予定だったので余計に自分のくじ運の良さにありがたみを感じた。


だが、俺にとって昔にくじに運を使ったことを激しく後悔した。





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