歳の差恋愛

 年下と恋愛がしたいが、自分の年齢が分からなくなってしまった。

 なぜか。私はあまり自分の見た目に自信がない。同い年の異性には取り合ってもらえないだろう。私は同じ年の異性を見ると負けた感じがした。正確には見ることすらできなかった。

 じゃあ年下に手を出せばいいじゃないか。そんなよこしまな考えで下心を持って街に繰り出した。

 勢いだけでナンパをしてみた。うまくいくはずもなかった。宗教の勧誘と間違われたり、怖いお兄さんに縄張りを邪魔するなと脅されたり、警察を呼ばれたりした。

 そんなことをしているうちに、どうやらナンパした相手が悪かった。気がつけば、宇宙人に捕まったようで、自分の過去の記憶を全部抜き取られてしまった。

 じゃあ、もう私の人生が終わりか、と言われるとそうではなかった。宇宙船に潜入していたスパイに助けられて、宇宙船を脱出し、月に不時着した。人間は月では生きていけないが、私は改造を施されたらしい。問題はなかった。これで無事かどうかは分からない。



「しかし、追手がやってくるかもしれない。ここからなんとかして地球に帰らないと……」

 太陽の光が地球によって隠れた。月の表面はぐっと暗くなり、だんだんと寒くなった。

 目の前のスパイは、深刻そうな顔だった。私は聞いた。

「私は記憶を失ったのかい?」

「ええ、おそらく」

「それで、君がスパイ?」

「まぁ」

「じゃあ、とりあえず、助けてくれてありがとう」

 私は、月の空を見つめた。実際、どこまでが本当なんだろうか。たしかに何も覚えていない。月の空から見えるオリオン座も結構綺麗だった。

「それもそうよ」と彼女は続けた。

「気づかなかったわ。あなたはあの宇宙船を脱出した瞬間に、それまでの記憶を忘れる薬を投入されたの。ここについていた。もし帰っても何も話すことができないように。迂闊だった。彼らもよく考えていた」

 彼女は話しながら、ここ、と私のうなじあたりをさすった。私は口を開いた。

「じゃあ、何も覚えていないのか」

「そうだと思う。あなた、何か思い出せること、ある?」

 5秒ほど目をつむり、私は応えた。

 ひとつだけもまともに覚えている信念。

「ところで、君はいくつ? 僕の年齢わかる?」

 彼女は目を見開き、指を顎に当てた。私に顔を向けて

「えー、と、そうね、被験体のデータは取れなかったけど。まぁ……あなたの見た目を見る限り、私よりちょっと年上じゃないかしら。あなたから見ると私は年下」

 と、答えた。

「そうか。じゃあ、それでいいか」

「え? 何か思い出せることはないの?」

 私はとりあえず、彼女について行こうと決めた。地球まで宇宙空間を泳いで渡れるのだろうか。

「無事に帰還出来たら、一緒に食事でもどうすか?」

「こんなところで誘うなんて頭もやられちゃったのかしら」

 うーん、まぁ、そうかもしれない。

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