内定が決まるまでだらだらしていた


 内定決まってから、あの人に会おう……と思っていたら、いつのまにか150年が経った。火星の空は、地球の青さよりも深く、澄んでいる。


 最後に地球の空が見えたのは100年以上前だ。50年にわたる世界大戦、恐ろしいほどのキノコ雲だらけだった。地球に生きている子供でも、教科書で澄み渡る空を見るだけだった。


 より深い藍色を見つめている。火星では真夜中だ。地球に戻りたい、とたまに思うが、たまに思うだけだ。故郷には間違いないが、あそこには血と死と、醜いものがいっぱいだった。そもそも今思い出せる地球の空は、本当の私の記憶なのか、それともこの火星紙で作られた教科書の内容の刷り込みなのか、もう分からなくなってしまった。



 150年というものはたいそう長い。それでもあの人はまだ地球にいるはずだ。



 会いたかった。ただ、それだけ。それ以上はない。ただ、同じクラスの中で、おそらく一番、他の誰よりも私の目を見つめてくれた、あの人。

 私は内定がもらえない宙吊りのままだと、他事すらやる気が湧かないというか。目の前のことにちゃんとカタがついて、自分の気持ちを整理して、あの人に会いたかったのだと思う。でも、そうやってうじうじしているうちに150年が経過した。長すぎる言い訳が喉元に刺さっている。



 私が火星で得た職は「『ふにゃふにゃ』の教師」である。

 ふにゃふにゃというのは、白くて、まあるくて、ふわふわしている。たまに致死性の毒を吐く。満ち欠けに反応して、5メートルくらいに大きくなったり30センチくらいになったりする。よくわからないやつだ。



 果たしてこいつに教育か通じているか分からない。ただ、政府は何かを賭けていると上長から聞いた。私にはよく分からない。面接で「教育学部の経験を活かして」とか言ってたら火星に飛ばされてしまっただけだ。



 あの人は、まだ地球にいるはずだ。もう人が住むことのできない惑星で、永遠の眠りの中、技術革新による復活を待っているそうだ。

 毎月地球に向けて、最近覚えたモールス信号を送っている。あの人からの返事はまだない。

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