先輩が社会システムになった時の水乃のショートショート短編集

水乃 素直

先輩が社会システムになった


「医学科を出れば医者になる。つまり社会システム学科を出た俺は社会システムになるんだな」と先輩は誇らしげに胸を張りながら言った。

 よく分からないが、先輩は社会システムになるらしい。

 私はその話に頷くでもなく、コーヒーを啜った。



「私の進路相談のはずでは」



「人の役に立つことがしたい」

 先輩は熱く思いを語った。「そして、人の役に立つことを考えた。答えは社会システムだ。社会システムは人の役に立つものだからだ」

 私は相槌を打った。

「たしかに便利ですけど……」

「そうだろう、そうだろう!」

 先輩は大きく頷いた。

「それはインフラと呼ぶんじゃないですか?」

「そうかもしれん。でも社会システムだ。それが答えなんだ」

 先輩はもう心を決めてしまっていた。

「あと、君は相談を俺にする時点で間違っているぞ」



「でも、どうやって社会システムになるんですか」

 先輩は就活用のカバンからA4サイズの紙を取り出した。

「ここを受けると社会システムになれるらしい」

 それは見るからに怪しげで、何か騙されているんじゃないかと不安になった。しかし、先輩は意気揚々と「社会システム」の単語を繰り返していた。



 卒業式に行っても、先輩は変わらずに「俺は社会システムになるんだ。誰よりも役に立つぞ」と自慢げだった。

「見送りには、私しか来てないですけどね」全く役に立ちそうにない先輩の進路に、周りのみんなは呆れてしまったようだ。



「君は人を見る目があるからなぁ、これからも達者でな」

 先輩が最後にくれた言葉はすごく優しい声色をしていた。



 ……そうして先輩は社会システムになった。それからも私は変わらず電子決済でコーヒーを買い、電車に乗り、ネットで叫んでいる配信者に投げ銭をした。どこに先輩が紛れ込んでいるか分からない。たまに先輩に呼ばれている気がするが、実際のところは確認しようがなかった。

 〜完〜

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