第87話 映画「コレット」(2019)ある作家の物語、ある映画監督・脚本家夫妻の物語

映画「コレット」(原題「Collette」)

・19世紀末期からフランスを席巻した女性作家シドニー=ガブリエル・コレットが夫のゴーストライター役から自立するまで、1890年代から1906年頃までを描く。

・2018年制作(米・英・ハンガリー)

・主演:キーラ・ナイトレイ

・監督:Wash Westmoreland

・脚本:Richard Glatzer/Rebbecca Lenkiewicz/Wash Westmoreland

(Richard Glatzerさんは前作「アリスのままで」を本作監督のWash Westmorelandさんと共同監督・脚本で手掛けていた。2015年死去。このために彼への追悼の言葉がエンドロールに記されていた)



 主人公コレットが年上の夫ウィリーと出会い、彼のゴーストライターとして私小説とでも言うべき「クローディア」シリーズを書いた所、エロチックな要素や男性に縛られない奔放な女性像から若い女性を中心にベストセラーとなる。そんな中で表向き書いた事になっているウィリーと実際に無理やり缶詰にされたりしながら小説を書いているコレットとの間での対立と女性との関係を深めるコレット、隠れて浮気をするウィリーが小説の方針や金銭浪費を巡って対立していく。


 プロットはシンプルで時系列通り見せていくタイプの構造を取っている。

 歴史的ベストセラー作家というと「ライ麦畑でつかまえて」のサリンジャーを主人公にした作品はカルト的な人気で作家自身が追い詰められる様子を描いた。

 また「天才作家の妻」はノーベル文学賞でいい気になっている作家の夫とその夫の作品をゴーストライターとして長年書いてきた妻の対立を描いていた。

 本作はこういった要素も散りばめつつ自立した人間としてコレットが歩み始めるを描いている。


 コレットとウィリー二人の愛憎のクロニクルとでも言うべき作品なので分かりやすく展開を見せてくれる。フランスの社会構造を大きく揺るがす第一次世界大戦までは入らないので歴史的な事件で二人が翻弄される事はなく二人の間の幸せ、不信と生まれてくる距離を観客はじっくり見つめる事になる。


 コレットは1954年81歳で亡くなった。生涯三度の結婚で一人娘を設け、第二次世界大戦では夫がナチスに連行され協力をしていた事があるなど戦争と愛と創作に生きた人だった。その若き日に絞って面白く見られるようにきちんと構成された作品だと思う。

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