第83話 ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」差別・被差別の姿を別世界でえぐる

 スティーブン・ソダーバーグ監督の映画「ローガン・ラッキー」(2017)で「ゲーム・オブ・スローンズ」原作小説について触れるシーンがある。

 劇中、刑務所内での立てこもり事案が発生。一種のストライキ行為として彼らはある要求を突きつけた。要求書を読んだ所長は構内放送を用いて立てこもり囚人達に対して回答を読み上げた。その中には以下のような事項も含まれていた。

「図書室のゲーム・オブ・スローンズ原作小説最新続刊を直ちに入れろとの要求は呑めない。原作者のマーティンはドラマ化の方が忙しすぎて小説の続きを書いていないから不可能なのである。所長の私も遺憾だ」

……確かこんな感じ。別の映画世界の中でも続きが待望されるフィクション作品。それが「ゲーム・オブ・スローンズ」なのだ。



 ドラマはいよいよ最終シーズンを迎えて世界を席捲中の一大世界叙事詩。言わずと知れたジョージ・R・R・マーティン原作小説の映像化作品。映像化の方が先を進んでいる。そして小説世界とは異なる展開が為されている。


 ジョージ・R・R・マーティンはSF、ファンタジー両方を手がける小説家で「タフの箱舟」においては未来の悪徳商人ここにありと言いたくなるような作品も書いている。この作品は未来世界において頭を使って相手を出し抜く主人公の「取引」ぶりが見所になっている。そこで浮かび上がるのは人間の倫理というところは「ゲーム・オブ・スローンズ」という中世ファンタジー世界と共通項になっている。物語にたらし込む毒とその毒に抗う人たちを描いて見せるのが上手い作家とも言える。


 「ゲーム・オブ・スローンズ」は登場人物が差別し、差別される姿を多く埋め込んでいる。ティリオン・ラニスターは生まれついての小人として甥(姉サーセイの長男)の国王や社会から嘲られるだけでなく姉サーセイや父タイウィンからは母親を殺した張本人として告発され続けている。

 奴隷制、人身売買が七王国にはないといいながら管理売春が跋扈し、その経営者が貴族で大蔵大臣であったりもする。

 病気関係も酷い。スタニス・バラシオンの娘、王女シリーンは灰鱗病と作中で呼ばれている病で顔の左側の一部が変質しており母親に疎んじられている。

 ティリオン・ラニスターがサー・ジョラーと川を旅をした際、遺跡と化している町を抜けようとしてある人々の襲撃を受ける。サー・ジョラー曰くある病気に罹った人達がこの町に捨てられたのだと言う。

 このように病気は誰かの罪と考えてしまう差別をしていた時代がある事を度々見せつけてくる。


 中世的なファンタジー世界にする事で現代作品では描きにくい人の暗部を表に出しえぐって見せるところがマーティンの本領だろう。

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