第82話 映画「響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ」(2019)詳細分析PART3

全3回。最終回は1年生奏・主人公編


SPOILER ALERT:劇中の核心に関わる内容について触れてます。





久石ひさいしかなで


・最初の出会いは楽器室。練習のためにユーフォを取り出した久美子。葉月が先に行った後、ふと「響け!ユーフォニアム」を演奏してみせた。その様子を廊下で覗き込んでいた1年生が奏だった。

・奏は楽器室には足を踏み入れずに久美子から高校で吹部に入る時にトロンボーンに変わろうと思っていたがユーフォになった事を聞き出す。そういう久美子の様子から奏はユーフォを続けてもいいかもしれないとの値踏みをした上で立ち去っている。

・一方的に情報を引き出されてクラスも名前も聞いてない事に気づく久美子。この時点では奏の複雑さが理解できていない。


・楽器分け。久石奏は「他の友達に付き合っていてユーフォ希望者が多かったらどうしようと思ってました」と言いながらユーフォ希望を出した。

・奏は立ち振る舞いの計算ができる子なので低音パートの先輩たちに受けのいい言葉を言っていて久美子はその言葉をこの時は真に受けている。なお久美子と一緒にやりたいという事だけは本音だったと思う。


・奏は告発者、検事的な性格を持っている。楽器室に楽器を戻しに行った時、求を「月永くん」と呼んで彼の傷口に塩を刷り込んだ。求の名前呼び要求発言に興味を持っており意図的な発言だった。結果、求の激烈な怒りを招き、それを見て取った緑が仲裁して奏が求に謝罪して一応沈静化した。


・久美子から美玲について相談を受けた時、秀一と久美子の関係に気付いてからかっている。そして美玲と友達になる事を引き受けたがそもそも低音パートで1年生は4人しかいない状況でまだ接近してなかったというのは不思議。そしてどうも奏はそういう申し出を待っていたようであっという間に近付いて友達となっているが、ただ友達になってるだけでパート内で美玲が溶け込めるように働きかけはしていない(美玲が変わる必要がないと信じている子なのでそういう働きかけをする訳がなかった)。


・サンフェスに向けての校庭でのマーチング練習。後藤卓也はトチる夏紀を注意していたが、追い討ちをかけるように夏紀の演奏が走っていると指摘。注意して上手くなってもらうというより嫌味に聞こえるし、後の展開を考えると嫌味なのだろう。

・美玲を巡る騒動の中で奏は久美子が残ると聞いて一緒にいていいかと可愛らしい後輩らしく聞いている。久美子もそういう奏が嫌いではない。

・この後、居残り練習しないけど演奏が上手な美玲、居残り練習してすぐ人と仲良くなるけど演奏は下手なさつきのどちらが好きかという尋問めいた質問を繰り出して、久美子が率直な答えをする羽目になっている。そして最後に改めて久美子への賛辞という形で夏紀へ支持できない奏の姿勢を明らかにしたように見えた。


・コンクールのオーディションへ向けての練習が始まる中、夏紀は久美子に先に演奏するパートを選ばせ(上のパート)、夏紀は下のパートを奏とやると言った。これに対して奏は「夏紀は策士」だと言い放った。先輩が上のパートを取るべきと信じているから「自分が選ばない形で、久美子先輩に選ばせてうまくやってるんですよね、中川先輩」そういう声が聞こえて来そうなシーンだった。


・夏紀が奏に苦労している部分の演奏について教えを請うた。奏はその事に怒りを覚えて黄前相談所のドアを叩いた。

・イタリアンカフェレストランで奏は夏紀にプライドがないのかと怒りをぶちまけ、久美子は夏紀が奏の奏者の力量を認めて教えを請うているんだよと言うけど奏にはそれが認められない。そして奏はどこで聞き付けたのか昨年の高坂麗奈と中瀬古香織との自由曲ソロ走者を巡る争いについて問う。久美子が話さなくても他から聞くだろうと中瀬古先輩が降りた事、あとあと揉めるような事はなかったというが、奏は「全国大会に行けたからだ」と決めつけて話を打ち切った。

・イタリアンカフェレストラン、原作だとパフェもあるようなお店に行く訳ですが、映画ではサイゼリヤをモデルにしたお店に行っている。メニューも基本同一らしい。久美子がスパゲッティのダブルを頼んでない限り下記のような内容になる。原作も映画も奏は怒り発散なのかちょっとリッチ。

久美子:689円=カルボナーラ(499円)、ドリンクバー(190円)

奏:988円=いろどり野菜のミラノ風ドリア(399円)、ドリンクバー(190円)、プリンとティラミス盛り合わせ(399円)

・お店のウィンドウからは長細いケースを担いだ少女が漕ぐ自転車が走り去っていた。立華の佐々木梓説をネットで見かけましたがその通りだと思う。


・オーディション。ユーフォニアムパート最後に奏が演奏を始めた直後に夏紀が介入して中断させた。この時の夏紀は正当な介入である事を言うために彼女らしくもない副部長である事を前面に押し出して滝先生、松本先生を納得させた。当然ながら奏がおかしな事をやっているのは先生方も気付いていたはず。夏紀の主張は受け入れられた。

・夏紀、久美子と奏の対話。他に聞かれたくない会話。本アニメ・シリーズでは大事な話があるとゴミ焼却機の場所になる傾向があるが、本作でもそれは変わらない。

・夏紀は奏を問い詰め、奏は副部長で頑張っているのにコンクールメンバーになれない下手な先輩は困る、身を守るために譲ろうとしたという本音を明かした。夏紀はそれに対して舐めた真似をするならオーディションを辞退すると切り返した。

・逃げる奏。追いかける久美子。「ぼけっとした顔に騙されてみんな本音を話してしまう」「鏡をお貸ししましょうか?」など奏からみた久美子像の言葉が重ねられた後に奏は中学校時代の出来事を語り始めた。先輩を差し置いて奏が抜擢された事、そしてそのメンバーでは銀賞しか取れなかった事でポストを得られなかった3年生がかわいそうという声の陰で辛い立場に立たされた事。

・久美子は奏から嫌な性格について指摘をされる。久美子はそれを認めた上で余計なものだと思っている事を告げる。ユーフォニアムを上手くなるには邪魔だからと言う。

奏から何のために上手くなりたいのか?と問われて分からないという久美子。そして駆け出して最後に久美子は奏に処方箋を与えた。「少なくとも夏紀先輩と私は奏ちゃんの事をかばうから。オーディション、全力でやってみなよ」


・関西大会の演奏直前、奏は久美子にそんなに昔からユーフォニアムの練習に一所懸命だったのかと問う。久美子は小学生から始めたけど惰性だったと言う。それが変わったのは中学3年生の時の麗奈の本気に接した事だった。

・関西大会終了後のバス車中。奏は「何もならなかった」という。それに対して久美子は奏に問い掛けた。奏の答えは久美子が中学3年生の時に聞いた麗奈のそれだった。



黄前おおまえ久美子くみこ


・久美子は劇中で秀一と奏から飲み物や食べ物をもらっている。そして久美子は麗奈にミカン飴をプレゼントしている。この点は完全に非対称になっている。


・オーディションで滝先生は久美子に1年生指導係として指揮台に立つと誰が何をしているのかよく見えるといった話をした上で久美子に向いているかもしれないと言う。

・このシリーズでは久美子が何のためにユーフォニアムを続けているのか問う。それは本作だとただ上手くなりたいためで目的なんかないという形で語られる。でも何者であるのか目指すにはそれでは足りない。麗奈はその点明確でトランペットのプロ奏者となる事、音楽を残す事が生きた証だと言って目標を定めている。

・原作「最終楽章前編」でも久美子は将来何者になりたいのか悩んでいる。滝先生が本作で示唆した事は一つの可能性だと思うし、そうではない別の進路になるのかもしれない。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る