第80話 映画「響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ」(2019)詳細分析PART1

全3回。第1回は3年生編。


SPOILER ALERT:劇中の核心に関わる内容について触れてます。






♬タイトルロール


・新入生の登校シーン(久石奏、鈴木さつき、鈴木美玲、月永求)

・さつきから美玲にカットが変わった時、最初顔は写り込んでおらず上にカメラPANで物憂げな美玲の顔が出てくる。さつきとの身長差を示した演出。

・奏は本作の物語をキックスタートする役割を担っており、劇中で3回登校シーンが登場する。そして物語が始まるのです。


・桜満開な校門。部長の吉川優子指揮の元、吹部2、3年生が「これが私の生きる道」を演奏。ベースは川島緑、ギターを中川夏紀が演奏している他、ドラムも入っている。

・3年生で大きく映されるのは低音パート以外では優子のみ。本作が誰を描くものなのか明確にしている。



♬宇治橋・公園


・橋の上で髪の毛をモフモフする久美子。遠景人物描写はちょっと手が回りきってない感じがしますが、その中でこのシーンはベストカットの一つ。

・ブランコで秀一のスマフォのアクセサリーを見て喜ぶ久美子。久美子は秀一をよく見ている。そして麗奈はそんな二人をよく見ている。

・低音パートとトロンボーンパートでどの程度新入部員が欲しいか言い合う二人。久美子は小学校以来のユーフォ奏者らしく低音パート希望者なんかいるの?という悲観論を取っている。

・飲んでいるペットボトルを飲む?と差し出す秀一。それを飲む久美子。関係が深くなっている事が分かる。



♬2016年度活動方針決定


・全員揃っているところへ滝先生がやってくる。カメラに向かって「ヤバいですね」というパーカッションパートの二人の新入部員。この二人はまだ「ヤバい」の意味が2通りあるのを知らない。彼女らは滝先生のかっこよさを褒めての意味で言っていたが、実際は滝先生の厳しい指導に対して「ヤバいです」というべきなのである。


・スマフォによる撮影カットが多用されている。誰が撮っているのか分かる事もあれば分からない事も多い。トランペットパート希望の1年生が「憧れでした」と高坂麗奈に言い、それに対して無表情の麗奈を写すといった使い方をする事で別の時間に起きていた事を証言的に入れたり出来るとは言え、そのカメラが何のためにあるのか説明がつけられないのはマイナス。


・優子が1年生指導係として3年トランペットの加部友恵と久美子を紹介したところで滝先生が登場。

・滝先生はまず人数の多さについて期待を表明しつつ、単なる無能の群れになるかもしれないなと言って新入部員を驚かせた。それでも昨年に比べたら穏当、穏当。

・その上で滝先生は昨年の方針について触れつつ黒板に「全国大会出場」と大書して部員に今年の方針を決定するように求めた。あとを受けた優子は部長として「出場」を「金賞」に書き換えて挙手投票を行い全国大会金賞を目指して活動する事になった。


・原作での久美子もそうですが多数決が民主主義だと勘違いしている節はある。久美子が1年生の時は意図的に滝先生が仕掛けて挑発すらしていて実は彼が越えてはならないと思っている一線の範囲で誘導は行なっていた。滝先生2年目なので優子はこの質問が来る事は承知しており、その上で更に高みへと目標のボールを投げた。本作は優子のそういう強さ、リーダーシップを見せていく作品でもある。



♬1年生指導係 加部友恵


・久美子と加部友恵が1年生の集合基礎練習の指導係に任命された。久美子は全体基礎練習の指揮を行い加部友恵が部員日記や個人練習の面倒を見ている。

・加部友恵は最初の2、3年生会議からしばしば映り込んでいる。合奏練習で右頬をさすっていた。サンフェスの後、奏者を辞めてマネージャー専従となった。顎関節症が原因だがその事自体は発表しておらず久美子は後で二人で話をして詳しい敬意を知る事になった。この件、副部長の夏紀も話を聞かされておらず部長の優子、滝先生(と松本美知恵先生)だけが知っていたものらしい(この部分はプロットミスだと思う)。



♬部長 吉川優子・副部長 中川夏紀


・新入生歓迎の校門演奏の指揮、全体合奏練習の指揮、サンフェスのドラムメジャーと獅子奮迅の活躍をする優子。本作ではあくまでリーダーとしての優子を描いていて、久美子達との直接の接点はあまり出てこない。

・優子最大の晴れ舞台は関西大会を終えて部員達に向けて行った部長演説だった。「顔を上げて」と言って涙ではなく明日を、そして来年のコンクールを見据えるように求めた。来年への向けての第一歩となるこれらの言葉こそ「誓いのフィナーレ」だった。

・中川夏紀。田中あすかの置き土産人事。普段は優子にツッコミを入れる役だが、関西大会結果発表の後で崩れ落ちた優子に声をかけていたのは夏紀だった。夏紀がいてこその優子の「誓い」だったと言える。



♬時間経過


 本作は月日、時刻の大半を隠した「リズと青い鳥」と異なり概ね時期がわかる形で描かれている。


・4月 入学式・新入部員勧誘

・5月 サンフェスティバル(太陽公園)

・5月 (テスト明け?)コンクール課題曲、自由曲発表

・6月5日 あがた祭

・7月 オーディション(テスト週間前=期末テストらしい)

・8月上旬 (吹奏楽コンクール京都府大会)

・8月お盆休み プール

・8月お盆休み明け 合宿

・8月28日(日) 吹奏楽コンクール関西大会

・10〜11月 久美子が新部長に指名される(原作通りなら優子・夏紀が指名)


*加部ちゃん先輩が書いている交換日記にサンフェスの言及があったのでそちらから日付を特定できる可能性はある。


・本作は2016年として描いている。これは課題曲マーチ・スカイブルードリームや関西大会会場(京都開催だった)からもわかる。また2015年として描いてきたTV版、映画のいずれか、またはその両方と続いている事を示している。


・「リズと青い鳥」は一瞬だけ映り込む優子のプリントの曜日を見る限り2018年として描かれていた。合宿や課題曲も一切触れない作りになっており、希美とみぞれの回想に2年生の時の希美復帰騒動が出て来ないので起きてない形で語られている。

本作で映り込む希美やみぞれはTV版で取り戻した関係のままでいるようにも見える。なので「リズと青い鳥」は「誓いのフィナーレ」と表・裏の関係にはないと思っておいた方が良いように思えるのです。


(続く)

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