第79話 映画「詩季織々」(2018)普遍的な物語、同じ価値観を持つ人たちの物語

映画「詩季織々」(2018)

・第1話「陽だまりの朝食」:食テーマ。湖南省。少年時代、高等中学生時代(中学生?)、北京時代(会社員?)。一貫して三鮮米粉(さんせんびーふん)を巡るちょっとした物語を置いて語られる。

・第2話「小さなファッションショー」:衣テーマ。広州。ワールドファッションショーは2020年秋向けのショー設定。

・第3話「上海恋」:住テーマ。上海。中学3年生1999年〜2000年、2002年(小雨(シャオユー)の米国留学前)、2008年(主人公の引越し、石庫門の再開発ホテルプラン)とその後(親友と再開発ホテルを開業。そこにやって来る小雨)。テープ交換日記は明らかに「君の名は。」スマフォ日記オマージュ。そこから伝えられない気持ちのすれ違いを織り込んでいる。時間が短いのが惜しい。

・プロローグとエピローグの空港のシーンで3つの世界が交錯しているが、出てくる時代設定から見るとちょっと不思議な感じがする。



 フォーマットは「秒速5センチメートル」に近い。

 一番新海誠作品から外れているのが冒頭の「陽だまりの朝食」で徹頭徹尾、三鮮米粉を軸に主人公が見た出来事が語られる。

 第2話は姉妹の物語だが大半が姉の視点で語られており妹が学生でアパレルデザインの勉強をしている以外は語られない。なのにその事が後で展開に絡んで来るので弱い。妹の視点をもう少し入れるべき作品だった。またファッションモデルの世界の描写も希薄だったのは残念。

 第3話は一番物語が躍動しているが、そのエンジン自体は「君の名は。」異種バージョンになっている。スマフォ日記オマージュはストレートに使い、そして1番の物語のコアの役割を担わせている。にも関わらず一番魅力的なのは上海石庫門という旧市街地を舞台においたからだろう。尺不足で最後の展開が付け足しに見えた。


 主人公のモノローグ処理が多いのにその一方で作中表記のテロップ処理はほとんどしていない。下手にやるならやらない方がいいけど、第1話の米粉店が引っ越して行く際の看板や第2話のスマフォのメッセージ、あたりはフォローが欲しかった。


 初恋の人が二人ともポニテだとかどれだけ三葉オマージュ重ねたいのかとか色々思いましたが、やっぱり第3話が一番面白く見られた。第2話はここが決め所というカットがなかったのは痛い。晴れがましい人なのだから雑誌表紙や街頭ADでは納得し難い。単に新海誠フォロワーではない作品にしようとしていたけどテーマに対して描写バランスが悪過ぎたのではないか。


 中国は政府と党の政治方針が反動的な党独裁への回帰を志向している一方で大衆の価値観や文化は日本や欧米と差がなくなっている部分が多い。彼らにしても10年、20年以上前の出来事は日本における昭和のような歴史の向こう側、変化の前、現代と違う世界になっている事がよく分かる作品でもあると思う。

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