第3話 「リズと青い鳥」希美とみぞれ二人の関係性を凝縮したミクロ・コスモス

第3話 「リズと青い鳥」


映画「リズと青い鳥」

・吹奏楽部の高校3年生、オーボエ奏者のみぞれとフルート奏者の希美。童話を元にした吹奏楽コンクールの自由曲「リズと青い鳥」で二人はソロ掛け合いを演じる事になった。二人が1年生の時、部の運営方針を巡っての大量退部事件があり、その時に希美は一度退部、2年生になって問題を引き起こしていた先輩たちが卒業、顧問も交代した事もあって戻っていた。そんな二人の息が合わず後輩や同期の子達の心配をよそに練習が進み二人はそれぞれ悩んでいく。


・京都アニメーション制作。山田尚子監督、吉田玲子脚本、西屋太志作画監督・キャラクタデザイン、牛尾憲輔音楽という体制は「聲の形」の座組みそのまま(吹奏楽パート松田彬人作曲・黒田賢一編曲)。

・原作は武田綾乃「響け!ユーフォニアム波乱の第二楽章」。



 京都アニメーションではテレビアニメ2期、映画版2作(総集編+新規作画)で黄前久美子を主人公として描いてきた。吹奏楽パートは「リズ」と同様の布陣ですが、監督、脚本、キャラクターデザインと敢えて変更してタイトルからも「響け!ユーフォニアム」を外したスピンオフというより独立した作品として作られた。


 二人のそれぞれの感情と論理、思い、身体表現などが食い違う時がある。それは自身でも気付いてない本音がある。そういう齟齬が合奏にも現れる。


 みぞれは練習する事を厭わない天才。彼女は劇中でもロングトーン(基礎練習)の音を響かせている。彼女は部活の木管パートの指導に来てくれている先生に音大受験を誘われる形でその才能の可能性が認められた事が示される。でもみぞれがオーボエを続けてきた理由は音楽が好きだとか上手になりたいといったものではなかった。その事をどう自覚していくのかは重要なテーマとして描かれている。


 対する希美は本作で屈折がある事に気付く。一度部活を辞めて再び戻ってきたという経緯は本編小説なり原作で描かれていて一つのハッピーエンドな結末を迎えていた。本作ではその要素はなかったかのようにも見える。むしろそれらも含めて二人の関係を見つめ直しているようにも思える。

 フルートパートでは後輩にフルートの演奏技術を認められていて、本人も「リズ」でソロ奏者の指名は自分が手にすると確信して実際そうなっている。

 でも彼女の練習はみぞれと質が違う。希美の思う練習は「リズと青い鳥」の練習であってロングトーン基礎練習ではない。そういう基本を研鑽するという姿勢は本作でも出てくる事はなかった。

 あの部活のフルートパート奏者として下手ではない。ただみぞれと息を合わせて表現して相手が分かってなければそこを引き出すような技巧まではない。

 そんな中でみぞれが音大受験に誘われた事を知ってしまう。常に中心で楽しくやっているのが希美。みぞれから見た希美観に合わない事は本人も気付いたからつまらない嘘をつき、みぞれの高望みに見せようとしてかえって他の人にも見えから言った音大受験を取り消せずに流されていく状況に自ら追い込んでしまった。


 みぞれと希美の関係は劇中オリジナルの童話「リズと青い鳥」のリズ、青い少女に例えて二人は見ている。本来第3楽章のオーボエとフルートのソロ掛け合いはリズ、青い少女に見立てての作曲はされていない。それが希美の発言と

新山先生のみぞれへの最初の面談の中でみぞれがリズという思い込みが生じる。

 みぞれは中学入学の頃は何もなくて希美が吹部に一緒にって誘ってくれて結果、オーボエと出会う事が出来たと思っている。

 中学校の吹部に入る前のみぞれは童話でリズが餌を与えている動物たちの一匹、タヌキ(アライグマ?)だった。それが希美に音楽を与えられて青い鳥の立場に変化した。

 リズの気持ちをみぞれは分からないという。そこへ新山先生は二度目の面談で青い少女のつもりになったら?と言い、ここで初めてみぞれは青い鳥の気持ちなら分かるという事に気付く。


 みぞれは青い鳥の気持ちを理解した後に第3楽章通し練習を滝先生に申し出ている。それは少々の問題なら無視して最後の小節まで演奏するという事を意味する。そんな中で高らかに歌うみぞれのオーボエ。実力を見くびっていた希美のフルートは時に演奏を止めた。でも通し練習なので演奏は止まない。希美の音楽のプライドはズタズタになった。


 生物室での希美とみぞれ。生物室はみぞれのテリトリー。みぞれと同じオーボエ奏者の後輩である梨々花ちゃんに聞いてやって来た新山先生ですら最初みぞれは不信感を見せた場所でもある。希美はそこでみぞれと話をするつもりで踏み込んでいるとしか思えない。

 そんな希美の作戦を他所に切々と希美への愛を語るみぞれ。初めて本音を言葉にした。希美はその言葉を拒絶するための笑いとみぞれの望む個人への好き、愛情の言葉を一言を与えなかった。そしてみぞれも希美のフルートの才能を客観的に褒めなかった。

 話が通じないと負けを認めて生物室を出た希美。そこで彼女は中学1年生の時、みぞれを吹奏楽部に誘った瞬間を思い出した。希美がみぞれを誘ったから今この時を迎えた。誰のせいでもなく希美の行動でここまで来た。こんな自分の選択を人のせいにはできないと希美は考えたのだと思う。でないと最後のシーンにつながらない。


 下校シーン。冒頭の登校シーンと対比関係にある。この中で希美はコンクールでみぞれを支えるからと決意を伝え、みぞれはオーボエを続けると答えた。希美は高校の間しかもう一緒にはいられないから最善の努力を尽くすと友に約束し、みぞれは希美への思いを胸に音大そしてその先もオーボエを続けるという生涯の約束をしている。それだからこそコンクール本番での演奏が楽しみと二人で言える関係になれた。ハッピーエンドの予感は道が別れていく事を受け止めてなお何か残るものがあるという希望から出来ている。

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