第2話

目の前に居たのはこの町の図書館の司書だった。

青いローブを身にまとい、背が低くいつも温和な表情をしている女性だ。

この図書館も、司書もいつからいるのかは分からないし、本人も聞くと怒る。


「それで、今日はどうしたの?」


司書は近寄って二人に聞いた。

彼女は二人の顔を見上げ、いつもようにのほほんとした表情で聞いてきた。


「これなんですけど…」


エアは丁寧に4つに折り畳まれた紙を取り出した。

司書はそれを広げて見ると、急に眉間にシワがより、気難しそうな顔になった。


「どうかしたのか?」


パーフィーが聞くと、彼女は取り乱していつものように温和な表情になった。


「え、ああ。なんでもないわよ」


「ほんとかぁ?」


パーフィーは疑わしい顔をして司書に顔を近づけた。


「ほ、ほんとよ…」


急に顔を近づけられたので、彼女は少しびっくりしてしまった。


「わかったわ。ちょっと調べてみるから、貴方達は座って待ってて」


そういうと、司書の指示で二人は長椅子の真ん中の道に近い所に座った。


椅子は一つ一つの背中側に一続きになった出っ張りがある。そこに両手を乗せ、寄りかかってパーフィーは話した。


「私さ、夢があるんだ」


「どんな夢ですか?」


パーフィーは遠くを見つめるような目で言った。


「いつか絶対、この島以外の陸地を見つけたいんだ」


それは、この島に住む飛行士や住民達が抱くありふれた夢だったが、彼女の目はそれとは違う、希望と勇気に溢れていた。


「…そうですね。私も応援してます」


エアは彼女の顔を見て微笑むと、彼女は「へへっ」と少し恥ずかしそうに微笑み返した。


「2人とも、こんなもので良いかしら?」


いつのまにか目の前にいた司書は1枚の紙をエア達の前に広げて見せた。

2人はよく見えるようにしゃがみこんで覗くと、司書の綺麗な文字で何か書いてあった。


「あの紙は結構昔のものみたいね。使ってる文字、文法が少し今の物と違ったわ」


「へぇ。でも、これなんだ?言ってることの意味がわからん」


パーフィーが横やりをいれた。


「そうね…この文章を見る限りは…ね」


『奴は我々の住む自然界を侵食している。

一刻も早くなんとかしなければならない。

我々は自然と上手く共存出来てきていたが、もう奴を止める方法は無い。』


その文章の下に、小さく追伸が書かれていた。


『P.S. 海上探索に出た隊員が描いたもの。恐怖で声も出なかったらしい』


走り書きで書かれたようで、丁寧な字ではなかったが、読めないほどのものではなかった。


「これ、あの絵に描いてあったやつの事じゃないですか?」


エアが隅に描かれた絵を指を差して言った。


「と、言うことはこの追伸の絵はこの文章の『奴』ってことだな」


隣にいたパーフィーも便乗するように言い、腕を組んでいつになくしかめ面で考え込んでいた。

少しの時間、静寂が彼女達を包んだ。

これを見つけたからどうという訳ではない、エアがそう思い始めた頃、パーフィーが唐突に言った。


「どうする?」


彼女はエアに顔を向けてそう言った。

同じ思いを抱えていたんだろうと、エアはすぐに察した。


「どうしましょう…」


ああ、また振り出しだ、とエアは心の中で少し後悔した。

父親を探すにしてもこれは手掛かりにはなりそうにない。

はぁ、と脱力して溜め息を吐くと、エアは2人に言った。


「それの正体がわかったところで、お父さんがどこへ消えたのか分かるわけではないんじゃないですか?」


「そうね…これはこっちで預からせてもらうわ」


司書はエアの言葉に直ぐ反応してほっと表情を緩めた。

いや、表情を緩めた気がした様にエアは感じた。何か知られてはまずいことがあるかのような反応だった。

そして、司書はなにも言わずそそくさと奥にある部屋へ消えていった。


「それじゃ、私達も帰るとしますかねぇー」


パーフィーはくるりと後ろを向くと、その場所から出ていこうとした。


「そうですね」


エアも彼女に続いて図書館から出ていこうとしたその時。


「おっと二人とも…どこへ行くんだぁ?」


「げっ」


野太くてドスのきいた声がした。

パーフィーの動きが一瞬止まる。

エアもなんだろうと思ったが、その姿を見て冷や汗が出てきた。

そこには、彼女達より遥かに背が高い大男が仁王立ちで入り口に立ちはだかっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る