若者の景色
暴力傾向にある女子生徒と指導教員
彼女は問題行動が多い。それら行動の中でも特に「指導しろ」と言われている点がある。
暴力傾向にある、という点だ。
「反省文ですか」
彼女の言動はまっすぐだ。偽りがない。今の発言の意図は「確認」だろう。
「うん。いつも反省文を書かせていると聞いてる。サボリをしていた時はね。」
「何枚書けば終わりですか」
「えっと…。じゃあこの紙に二枚以内で。終わったら声かけて。それまでは作業してるから。」
「……はい」
彼女は授業中の時間にもかかわらず屋上で読書をしていた。彼女は学校生活の大半を屋上と生徒指導室で過ごしている。無理に授業に引きずっていこうとすると、彼女は手をあげる。初めのうちは大ごとになったが、次第に大ごとにならないよう教師側も彼女も距離をとりつつ交渉することになっていった。ある意味、安定している。ここには秩序がある。
「本は何を読んでいたんだ?」
彼女は黙々と原稿に鉛筆を滑らせる。反抗の姿勢を見せるためにわざと無視している、のではないようだ……。集中している。反省文に。反省文に?
「終わりました」
言い切ると同時に、バシッと原稿用紙を突き付けた彼女。視線は私に向いている。
「は、はあ……。」
彼女は荷物を手慣れた手つきで順序良く片付け「失礼します」と残して生徒指導室を出た。
何だったんだ。驚くとぐうの音も出ない僕はひとまず落ち着いて紙を抱えている自分に気づく。彼女が押し付けてきた二枚の原稿用紙。やたらと字が上手い。目を通してみる。
「なんだぁ…これは……。」
簡潔に言えば、これは反省文ではない。感想文だ。
彼女が読んでいたのは児童向け図書の「かけらの旅」であったと文章からわかる。
「主人公はここで舟を出すという決断をするが、不自然である。出発してしまえば二度と戻れない、死地への片道切符。欲しがることなんてせず、故郷に住んでいればずっと穏便に暮らしていれたかもしれない。それなのになぜ出立を選んだのか。大きな理由といえるものがこの物語からは読み取れない。“かけら”を欲しがるのは、こどものあこがれとして当然のように語られる。しかし誰にでもあるようなそんな些細な望みが、命にとって代わっていいのか。だいじな過去、故郷、仲間を捨てられるのか。私には理解できなかった。よって、主人公は一時の強い衝動に駆られ過ちを犯したのだと私は主張する。この物語も、読めなかった。」
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