脳ミソを抜き取られ、お手玉されるような小説

文章は短く、サラサラと読む事が出来ます。

流れるように読み終えた後、次に「何だこれは」と首を捻ります。もう一度文頭から読み返しますが、それでも全てを理解しきれません。

しばらく時間を置き、「次こそは」と三度文頭から読み進めます。悲しい事にまたしても思考が追い付かない、躍起になって四度喰らい付きますが、駄目。

五度目にして気付きます。「自分はいつの間にか、他人の夢の中に連れ込まれた」と。

六度目の読了を迎えた後、少しだけ「本質」に近付いた気になりますが、それは罠です。散りばめられた語の数々が、笑顔で銀かパール製の刃物を此方に向けているだけです。


口語調の文字群を眺める内に、ひどく不安定で広大かつ、妙な親近感と安堵感がヒタヒタと迫って来る感覚は、是非早急に実感して欲しいです。

見慣れたはずなのに、何処か奇妙な魚ばかり泳ぐ水槽に放り込まれるようなこの怪作は、まさに小説の形をした「誘拐犯」でありましょう。