夢のない話

いつからか欠けた月は欠けたままになった

有名な権威ある学者は

とうとう月の崩壊が始まったのだと得意げにいう

ぐるぐると地球の周りを高速回転しすぎて

限界に達したのだと


月は日に日に痩せ細る

新月になる日にはとうとう月は消えるだろう


まんまるお月さまから

蟹のはさみが消えていた

長い髪の女の面影も薄くなった


だから、うさぎも死んじゃったかもしれないね、

と望遠鏡を熱心に覗き込んでいた少年に声をかけると

月にうさぎなんかいないんだから、月がなくなったって別に変わらないさ

それよりぼくは月が消える瞬間に興味があるね

その日はずっと起きてていいでしょう、叔父さん


それを聞いた彼の叔父は

夢のない話ですねと僕に笑いかけてきた


僕は長い耳を切り取られた月を見ながら

まったくもってそのとおりです、と

言う他なかった

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