Round3 妻、復活。ズル休み作戦失敗


「もう起きても大丈夫になったよー。午後は病院行ってくるよー」


 会社の昼休み、妻からなんとものんきなメッセージが来てほっとした。

 とりあえずツラい状況は脱したらしい。よかったよかった。


 朝の妻とのやり取りを思い出す。


********


 朝起きるとき、妻はまだ寝ていた。


 付き合っている時はともかく、結婚してから妻は1回も私より後に起きたことがない。ただの1回もだ(そのかわりによくがっつり昼寝をしている)。妻より先に起き出したのは多分結婚以来始めてだ。改めてこいつはすごいやつなんだと思った。

 よく私のような地味男と結婚する気になったもんだ。以前、そのことを妻に言ったら「詐欺師にひっかかったみたいなもんよねー」と言って笑っていた。

 

 そんなことを考えながら目玉焼きを作っていると妻が起きてきた。


「まだ寝てなよ。今日は会社休むんだろ?」

「おなかすいたの」


 それはいいことだ。食欲が出るってことはもう快復軌道に乗っている。


「これ食べな。食べられなかったら残していいから」


 作っていた目玉焼きとトーストをそのまま妻の分にした。それとコーヒーの代わりにカップスープ。妻はいつもよりもボケた表情でトーストにマーマレードを塗ってもそもそかじった。


 あらかた食べ終えると妻は立ち上がった。表情には生気が戻っている。ああ、これは大丈夫そうだな、と思った。


「あなた、私の看病をダシにして会社サボっちゃだめよ?ちゃんと会社行きなよ?」


 そう言うと、悪いけど私はもう少し寝るね、と言って寝室に戻って行った。


 「妻がインフルで病院連れて行きますんで」と言って会社をサボる、もとい休む目論見はもろくも崩れ去った。仕方なくスーツを出して着替えた。 


***********


 会社からの帰り、デパ地下に寄った。

 今日も妻に料理させる訳には行かない。今日はお粥とお惣菜だ。ついでにケーキ買おうと思ったが、病み上がりにケーキはどう考えてもおかしいのでフルーツゼリーにした。


 今日、帰ったら妻に言おう。きっと彼女は呆れながらも許してくれるだろう。

 

 そしてどれか一本売って処分しよう。一人で5本もギターを持っているのが異常なんだ。


 売るならどれにしようか。やっぱり高校生の時に始めて買ったやつかな。グレード的にも機能的にももう使わなくなって久しいし。でも、一番思い入れがあるんだよなあ。


 そんなことを考えながら電車に乗った。


 多分、今日は妻がいつもの笑顔で出迎えてくれるだろう。


 特別なことは何もない。

 それでも、足取りは軽かった。


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