百合と石けん

目箒

百合と石けん

 学園には百合の温室がある。私とあの子はいつだって寂しくなるとそこに行ってお互いを見付けるのだ。

 色んな種類の百合があるその温室は、私たちの背丈よりも高い品種だってある。だから、隠れて身を寄せ合うのにはぴったりだったのだ。頬をくっつけあって、戯れに相手のリボンをほどいたり、一番上のボタンを外してしまって、鎖骨が行き会うところに触れてみたり。そこから先は、学校でしてしまうには少し勇気のいることだったからしていないのだけど。

 むせかえるような百合の匂いがする中で、お互いの匂いもわからなくなって、私たち、まるでここにはいないみたい。


 少しずつ触れ合うことにも慣れてきて、私たちはお互いが使っている石けんの香りを知った。腰の細さも知った。ぺたんこだと思っていた自分の胸が、抱き合うのに邪魔だと言うことも知った。

 彼女が思ったよりも、もっと寂しがり屋で激情家だと言うことも。


「いた……」

「ごめんなさい……」

 首と肩を繋ぐ線の、少し背中側に鋭い痛みを感じて思わず声が漏れた。何が起きたのかわからなかったけど、彼女の舌がちろりとそこを舐めて、噛まれたのだと気付いた。セーラー服を正しく着ていれば見えない所。

「血が出てる」

 そう言って、彼女は自分で噛んだ私の肌を吸った。私は彼女の肩口に顔を埋めて、されるがまま。


 あいしてる。


「なぁに?」

 私がもごもごと何かを言ったことには気付いたのだろうけど、何を言ったのかはわからなかったに違いない。私は首を横に振った。


 このままひからびてしまっても良い。もう私にとって彼女は、ただ寂しさを埋める生徒Aではないのだから。


 自分すら見失いそうな百合の香りの中で、あなたの石けんの香りだけ探している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百合と石けん 目箒 @mebouki0907

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ