第4話 決戦前夜と友情
「やはり元炭鉱町だけあって、物資は豊富でしたね」
鉱山爆破用の小規模ダイナマイトや、コールタール、ロープなど様々なものが置いてあり、すべて活用することにした。
「みなさん、躍起ですわね」
エリーが準備にいそしむ住民たちを見やる。
「虐げられていましたからね。子供でさえも声を上げるほどに、彼らへの怒りは相当なものだったという事です」
冷静に言うマリアなのだが、エリーには疑問が浮かぶ。
「マリアは賞金首なのですよね?」
「そうですが?」
質問にマリアは首を傾げる。
「何故、賞金首であるのに人助けを? それに悪党以外は殺さないともいってましたわよね」
「……、答えたくありません」
マリアが沈痛の面持ちを見せる。人助けする理由は別に問題ないだろうが、賞金首になった理由は触れてはならない事なのだと分かる。
「ふたりとも」
保安官が手を上げて呼ぶ。
「クレイジー・ハウンドは、中央の脱走兵の集まりだといわれて、様々な噂が流れている。その残虐ぶりから……悪魔をその身に宿しているともいわれている、危険な連中だ」
「中央の……脱走兵?」
保安官からその話を聞いた途端、マリアの顔が青ざめた。
「マリアさん、連中と何かあったのかね?」
「いいえ、彼らとは別に。ただ、犠牲者ではないかと」
犠牲者――気になる単語が出てきたのだ。
「……触れてはならない過去というのはこの事なのですね」
核心に触れてしまったのだとエリーは感じた。
「もし彼らが悪魔をその身に宿し、悪用しているというなら完全に潰さねばなりません」
「わかった、私も君の過去は何も聞かんよ。賞金首である君が協力してくれている、それだけで十分だ」
保安官もマリアの過去について何も聞かないことにした。クレイジー・ハウンドの一員から住民を守ってくれた、それだけ十分だったからだ。
自らではできないことをしてくれたのだから。
「ありがとうございます。……久しぶりに人の温かさを思い出しました」
マリアの瞳から一筋の涙が流れた。
「とにかく、あの狂犬たちを撃退し、町に平和を取り戻しましょう」
「ああ、今町民総出で準備をしている。奴らが驚く顔が目に浮かぶよ」
保安官がフッと笑うと、二人は安堵した。
「お願いします。我々が連中を撃退しただけでは意味がありません。町の誇りを取り戻すための戦いなのです」
熱のこもった言葉からは、悪魔と言われた賞金首とは思えないものだった。
「マリア、もしかしてあなたは、聖職者か貴族なのかもしれませんわね」
誉め言葉を言うと、
「止めてください。私はただの賞金首。人様に何かを語れる身分ではありませんよ」
と、マリアは恥ずかしそうに咳払いをする。
どうやらこの戦いで二人に友情が生まれかけているようだった。
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