第3話 窮状と決行
「無礼者を成敗しただけです、保安官殿」
保安官であることを示すバッジを付けている中年の男にマリアはそう言い放つ。
「奴らはクレイジー・ハウンドの一員だぞ、分かっていているのか?」
慌てる保安官にマリアはそれでも平静を保っていた。
「所詮は軍隊崩れでしょう。なぜ保安官であるあなたはあの連中の横暴を黙っているのです」
マリアが切り返すと保安官は黙ってしまう。
「ハウンドの奴ら、数を頼みにして私たちを脅してくるんだよ。食料や物資を寄越せって」
保安官の代わりに答えたのは気の強そうなウェイトレスだった。
「そうだ……、町を守るためには。奴らの要求に応えるしかなかった」
保安官は涙を堪え、悔しさから拳を握っていた。
小さい町ゆえ、中央からの派遣も期待できず、ただただ疲弊するしかなかった。
「……」
それを鑑みればマリアもわからなくはなかったが、だがこのままでは町がつぶれるのは時間の問題だといえる。
「お父さん!」
酒場の入り口から少年の声がした。エリーも一緒だ。
「どうして悪党なんかの言いなりになってるの?」
このセリフから保安官の息子だということがわかる。
「ジョン……」
保安官はジョンの言葉に目を伏せてしまっている、悪党をどうにかすべきなのは分かってはいるのだ。
だが、町の人間も守らなければならない。それも保安官の責務である。板挟みに悩んでいるのだ。
「話はすべてこの子から聞きました。わたくしはこの子の言う通り、クレイジー・ハウンドと戦うべきだと思います」
どうやら外でマリアに吹き飛ばされた無法者の見た時、それをみたジョンから話を聞いていたようだ。
「君は賞金稼ぎか、なるほどな。だが、奴らは軍隊崩れだぞ? ひとりでどうこうできる相手じゃない……」
戦力差が圧倒的に違うのだと。
「ならマリアにも加わってもらいましょう。腕は確かです」
と、エリーは視線をマリアに向ける。
「……」
マリアが思い起こすのは、方々で見てきた町の惨状だった。
中央の目が届いていない地域は無法者に嬲られる、それが西部の現実だった。
「わかりました」
頷く。
「報酬は……」
「結構です」
保安官が報酬の話を口にしたのだが、エリーは黙らせる。
「人助けに報酬を期待するなど具の極み……。相手の賞金で十分ですわ」
胸を張る。やはりそういってしまうのは高貴な身分ゆえか。
「それに人数差を埋める策はあります」
エリーはフッと笑う。
「この町は金鉱に近いのでしたわね?」
エリーは頭の中に地図を展開させる。
「もう金は枯れてしまっているが……。それがどうかしたのか?」
「発掘用の発破は残っていますわよね? それを利用しますわ」
小規模用のダイナマイトで相手の数を減らそうというのだ。
「……」
爆弾を使う――、その場にいる全員は息を飲まされるのだが、無法者相手に立ち向かうにはそれしか方法がないのも事実だった。
「保安官!」
青年たちが店の中に駆け込んでくる。
「連中が町への報復すると……」
青年は青ざめた顔だった。かなり強い言葉で脅されたのだろうという事はわかる。
だが、エリーはフッと笑い、
「好機ですわね。こちらから出向く手間が省けました」
町に罠を仕掛け、マリアとエリーで生き残ったクレイジー・ハウンドと対決するという事だ。
「分かった。町の中で発破以外にも使える罠を探そうと思う。できる限り被害は押さえたいからな」
「僕も手伝わせてよ!」
ジョンが保安官に駆け寄る。
「……。しかし、まだお前は子供だ、血なまぐさい事をさせるわけにはいかない」
「わかったよ……。でも、応援はさせてね」
「それで充分です」
ジョンがそういうと、マリアがジョンの頭をなでた。
「よし、今夜決行ですわ。無法者に鉄槌を下しましょう!」
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