第2話 休息と火種

休息と火種





 マリアが馬を走らせていると町が見えた。

 近くに金が採掘できた炭鉱があるのが見えたが、それなのに賑わっている様子はない。

 ――小さな町なら情報も来てないでしょうし、安全に休めるでしょう。

 安全に休息できると踏んでの事だ。

「エリス、どうどう……」

 マリアは愛馬を落ち着かせ、ロープに繋ぎ柱に結ぶ。 

「飼葉を貰ってきますからからね」

 と、両開きのドアを押して酒場に入る。

 客はやはりというかまばらで、ウェイトレスが一人、そして店の隅で旅の演奏家三人組が音楽を奏でているだけだった。

「いらっしゃいませ、お嬢さん。旅の人かい?」

 マリアに挨拶するのは、まだ若いちょび髭のバーテンダー。

「ええ」

「こんな寂れた街に旅人とは珍しいな、座れよ」

 バーテンに促されマリアはカウンターの席に座った。

「パスタと馬の飼葉を頂きたいのですが」

 と、マリアが注文しようとした時だった。

「よォ!」

 ガラの悪い男の声が背後から聞こえてきた。

 その声に店の中が静まり返る。

「よォ、マスター。来てやったぜェ?」

 男は帽子を乱雑にかぶり、髭も整えられておらず、いかにも無法者という風な格好をしていた。

 葉巻の特有の重い臭みが鼻につく。

「酒だ! 酒を出せ」

「えっと、酒は今切らしておりまして……」

 マスターは恐る恐るという風に言うのだが、無法者は怒鳴り散らし、

「あ? 俺らをクレイジー・ハウンドと知っててのセリフか? いつも通り蔵からもってこい!」

「ひッ……!」

 マスターが慌てて厨房に引っ込む。

 それを見ているウェイトレスは苦虫を噛みつぶすような表情をしている。

「お? 嬢ちゃんとは珍しいな。ひとりか?」

 と、無法者がマリアに訊ねてきたが、無視する。

「だんまりか。だが、気の強い女も悪くねェ」

 と、無法者は下品な笑い声をあげる。 

「そうだな。奢ってやるよ」

 と、ミルクを滑らせてよこした。

「酒も飲めないお嬢ちゃんにはミルクがお似合いだろォ?」

「……」

 マリアはミルクを返す。

「あん? こりゃあどういう意味だ?」

「分かりませんか?」

 苛立つ無法者にマリアはフッと笑う。


「ここから消えなさい」


 マリアが腰のホルスターから抜き放ち無法者に銃を突きつける。だが、既製品と違うのはやや大型だという事。

「このクソアマが、ちょっと可愛い顔してるからって付け上がりやがってよォ!」 

「とはいえ、銃弾でこの店を潰すのは本意ではありませんから」

 と、言った瞬間マリアの姿は無法者の視界から消えていた。

「あ? どこいきやがった!」

 無法者は右左と顔を向けるが、どこにもマリアの姿は見当たらない。

「……後ろ!?」

 ウェイトレスが驚きの声を上げる。そう、マリアはすでに無法者の背後を取っていた。

「はあッ!」

 蹴りを無法者の背中に埋める。今回は遠慮会釈などない、吹き飛ばされた無法者は両開きのドアをぶち抜き、外へ放り投げだされた。

「彼女はこの町にいるはず――」

 と、ちょうど町についたエリーの視界に吹き飛ばされた無法者が入る。

「……え? 一体何が起こっているのですか?」

 あまりにの衝撃にエリーは腰を抜かした。当然、無法者はショックで意識など飛んでいた。

「すみませんでした。壊さないといったのに扉を壊してしまいまして。弁償金はお支払いします」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

 頭を下げるマリアにバーテンは恐怖からか汗を大量に流している。

「まずいよ~」

「やば~いよ」

「めっちゃやばい~よ」

 演奏家三人組が何か歌っている。

「あいつら、クレイジー・ハウンドの一味の一人なんだ」

「クレイジー・ハウンド?」

 バーテンから聞いた名前を思い出す。

 ――確か、賞金首の……。

 自分ほど高額ではないが、恐怖で町を支配し収奪している面倒な賞金首だったのを思い出した。


「なんてことをしてくれたんだ!」


 中年の男が叫びながら酒場に入ってきた。 

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